神戸南京町といえば「皇蘭」。
その名と味を、全国へ

株式会社 皇蘭

代表取締役 千田 昌彦さん

岡山県倉敷に拠点を置く株式会社ピアーサーティーにおいて、飲食・ホテル・海外事業に携わり、取締役本部長・取締役経営戦略室室長を歴任して同社を3店舗から270店舗に拡大させた。その後、関東企業へのコンサルティングを経て、株式会社皇蘭の副社長として業績の立て直しを図る。1億3千万の赤字を約1年半で黒字化し、代表取締役に就任。地元・兵庫県にゆかりのある同社を再建し、より良い状態にして次世代へ繋げることが自分の役目だと話す。

株式会社皇蘭が運営する「皇蘭」は、神戸南京町を代表する老舗中華店。昭和34年の創業以来、中華まんや小籠包、餃子などの点心が関西人に愛され続けている。現在は直営店だけでなく百貨店やお土産店、ECサイトなどでも商品が販売され人気となっている。中華まんは卵や砂糖を用いたふんわりとした皮が特徴。「冷めても食感が良くておいしいのが皇蘭の中華まん」と千田社長は話す。

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ふわっとした皮を頬張ると、肉や野菜、椎茸などの旨味が絶妙に合わさったジューシーな餡が口のなかに広がってたまらない。その旨味と皮の甘さが溶けていき、口の中がまろやかな至福でいっぱいになる。神戸南京町で60年以上愛され続けている「皇蘭」の豚まん。時代が移っても人気商品であり続けているのは飽きのこない美味しさがあるからだ。そんな豚まんが「皇蘭」を神戸南京町で一、二を争う老舗ブランドへと成長させた。関西人であればその名前をご存知の方が多いはずだ。だが、高い知名度の裏で厳しい経営状況が続いていたことは知られていない。

「外から見るブランドのイメージと内部の実情との乖離がすごかった」。そう話すのが、同社の再建のため2021年に副社長として招かれ、2022年代表取締役に就任した千田さんだ。コンサルティグ業の一環として当初は外部から同社を支援するつもりだった。しかし「これは内部に入らないと建て直しは難しい」と判断し、自ら船頭役を務める覚悟を決めた。社会人になって地元の兵庫県豊岡市から神戸へ出てきた際に、南京町をよく訪れるようになり「皇蘭」という名前には馴染みがあった。「これも何かの縁」という気持ちだったという。

「最初はブランド力があるのだから何とかなると思っていたのですが、甘かったですね」と振り返る千田さん。副社長になってすぐ、当時代表取締役だった前社長に約束を申し出た。
「これまでやってこられたことを否定することになりますが、よろしいですか。すべてをひっくり返しても文句は言わないでください」。
前社長は「皇蘭」のブランド力を高め、会社を成長させた功労者だ。しかしブランドの急拡大によって歯車が狂い始めていたが、成功体験があるからこそ己の道が正しいと経営方針を省みることがなかった。「この会社の問題は上層部にある」と千田さんは正面を切って突きつけた。「過去の成功に何のしがらみもなく、会社が無くて困らないぐらいの人間がやらないと無理だろうと思いました」。

Section 2

旧社名の北海は、北海道出身である創業者がアイスクリームなどの乳製品を製造販売したことから始まる。その後、アイスクリームが売れない冬の商品として豚まんを開発し、神戸南京町で「皇蘭」をオープンさせた。豚まんの美味しさがすぐ評判になり、会社は急成長を遂げたのだが、その成功に周りが指をくわえて見ているはずがない。同社の勢いに乗っかろうと、多くの企業が「うちと一緒にやりましょう」とOEMのオファーを出してきたのだ。頼まれれば断らない。人情肌の創業者、そしてその精神を受け継ぐ前社長は周りにいい顔をして仕事を受けるほど会社が儲かると考えていた。

「OEMは多品種にわたり、約300アイテムもありました。その多くは作れば作るほど赤字になるものでした。昔ながらの付き合いを重視するばかりで、数字を省みることが一切なかったんです」。千田さんは副社長就任直後に全社員と面談を行っていた。そこで感じたのが、どの社員にも昭和の考えが染みついていることだった。トップダウンの古い企業体質が根深くはびこり、社長が「良し」とするものに従えば「間違いない」と信じていた。そして、OEMによって仕事が増えたことをただ歓迎し、がむしゃらに働くほど成果につながるという価値観を疑っていなかった。ところが実際は頑張れ頑張るほど損をするアイテムをつくっていたのだ。

千田さんはすぐに動いた。赤字になっていたOEMアイテムの依頼元を訪ね、このままでは取引できないと伝えたのだ。対等な取引ではないという千田さんの正論に理解を示してくれた企業もあったが、「経営者が変わると値上げの話か!」と罵声を浴びせられることも多かったという。そんな言葉にも動揺せず毅然とした態度で交渉を行い、最終的にOEMアイテムを大幅に削減。自社ブランドとOEMを含めて合計70アイテムにまで絞り、赤字の解消につなげた。
一方、社員には「働けば働くほど儲かるわけではない。定時になったら早く帰ろう」と挨拶のように繰り返した。当初は「それでは会社が潰れます」と反論する社員もいたが、千田さんは粘り強く「量よりも質」であることを伝え続けることで社員から古い考えを洗い落していった。「最近、社内がぱっと明るくなったと感じているんです。社員の顔に余裕が出てきたことが嬉しいですね」と話す。

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千田さんは大学を卒業後、飲食チェーン店を運営する株式会社ピアーサーティーに入社した。当時は3店舗だけの岡山の小さな企業だったが、現在では多ジャンルの飲食店を全国に270店以上展開している。その成長の立役者のひとりが千田さんであり、同社を去るころには取締役を務めるまでになっていた。

「経営がやりたかったので『独立支援できる会社をつくりたい』という方針に惹かれたんです」と入社の動機を語る千田さん。実は元々、飲食に興味がなかった。そのため飲食経験者が多い社内のなかで食に対する熱量の差を感じ、自分はこの業界には向いていないのではないかとモヤモヤする日々が続いたという。しかし、悩みをピアーサーティーの社長に打ち明けたとき、
「俺も未だに自分がこの仕事に向いているかわからん。お前は何年目だ。4年目だろ。嫌いなことを4年も続けるわけがない。だったら向いていると思い込め。俺もそうしている」という言葉が返ってきてストンと来たという。
そうだ、嫌いなことは続かない。物事を前向きに捉えるだけで、悩みは消えていった。以後、千田さんは八面六臂の活躍を見せる。和洋中やカフェなどあらゆるジャンルの店舗に関わり、メニューづくりから出店の交渉、食材調達、店舗の設計、海外出店まですべてにおいてリーダーシップを発揮した。

「いろんな経験を経て、悩んでも解決しないことのほうが多いことがよくわかりました」。悩みはじめると自分を否定したり状況を悲観したりして行動にブレーキをかける。でも、どんな状況も前向きに捉え、そう思い込めば悩む前に身体が動き、案外それが状況を好転させていったと千田さんは話す。「思い込むって、単純だけどすごく大事なんですよ」。今まさに託された再建の道も困難の連続だ。悩みが絶えないはずだが、千田さんは矢継ぎ早に策を講じる。その実行力の根底にはピアーサーティー社長の教えがあった。

Section 4

千田さんは同社に入ってわずか1年半で赤字を黒字へと転換させた。
「OEM商品の選別や量販店での販売拡大などで守備を固めてきました。これからは攻撃に転じようと思います」。それがブランド力を生かした新商品開発と販路拡大だ。ピアーサーティーでの経験を経て、千田さんには飲食業界に広いコネクションがある。それは他社にはない強みだ。たとえば、岡山手延素麺株式会社やスイーツの株式会社神戸シェルブールなど様々な企業とコラボ商品の開発に取り組んでいる。「私が築いた関係性もありますが、『皇蘭』というブランド力があるから多くの企業が協力してくださるんです。神戸シェルブールさんには『ホワイトチョコに負けない杏仁をつくりたい』と無茶なお願いをしたのですが、快く協力してくだり本当に有難い限りです」。互いのブランドを掛け合わせることで相乗効果を生み、両ブランドの更なる認知拡大をめざしていく戦略だ。また、「皇蘭」にとっては豚まんの売上が落ち込む夏場にも売れる商品を手に入れることができる。

協業によって商品ラインナップが増えれば、次はその販路拡大だ。千田さんは全国でのアンテナショップ開設をめざす。最初の一手は東京出店。「関西には強力なライバル社がいます。競争を避ける狙いもあり、関西以外での拠点を増やしていきたいと考えています。神戸南京町の名前は首都圏でも知られています。南京町を代表するブランドとして「皇蘭」を全国にも根付かせていきたいです」。

千田さんが現在の道を選んだ理由は、同社に縁を感じたこと以外に、もうひとつある。「『皇蘭』というブランドが私を惹きつけました。飲食での長い経験があるもののブランド戦略に携わることだけがなかったんです。これまではショッピングモールに来た顧客をいかに取り合うかというようなパイの奪い合いに注力してきたのですが、ブランドがあればまだ見ぬ顧客をブランドの力で引っ張ってくることができます」。足を踏み入れていないビジネスの世界が目の前にある。しかも「皇蘭」というブランドにはまだまだ可能性がある。そんな好奇心が千田さんに湧いた。「今後もっとブランドの立つ会社にしますよ」。2024年4月に『北海』から『皇蘭』へ、社名を変更。千田さんの攻めはこれからが本番。「皇蘭」の名前が全国から聞こえてくる日は近いはずだ。

株式会社 皇蘭

〒657-0852 神戸市灘区大石南町2丁目2番2号
TEL:078-861-1656(代表)
URL:https://www.kk-hokkai.co.jp/

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