製造業の「格好良さ」を
設計し直す
株式会社 西田製作所
代表取締役 伊藤 芳樹さん一級建築士としてゼネコンで活躍後、西田製作所に入社。2023年に代表取締役に就任した。建築の専門知識を武器に、従来の機械設備メーカーの枠にとらわれない経営を推進し、2024年には自らの構想のもと新社屋を新設。洗練されたデザインのオフィスに加え、社員が健やかに働けるよう、食堂やゴルフ練習スペース、多目的ルームなども備えた環境づくりに力を注いだ。
メッキ加工を中心とした表面処理装置のトータルエンジニアとして、ライン全体の設計・製造からアフターメンテナンスまでを一貫して担う。
高品質な装置づくりを支える最大の要素は「人」と捉え、若い世代が誇りを持って働くことができる製造業の新たな環境整備に取り組んでいる。
Section 1なぜ最初に、新社屋だったのか
ホテルのロビーを思わせる、スタイリッシュなオフィス。緑を基調とした空間に観葉植物が溶け込み、自然と心がほどけていく。「出社したくなる職場」とは、こういう場所を指すのだろう。
2024年11月11日。株式会社西田製作所は、新社屋へと拠点を移した。
同社は、メッキ加工・表面処理設備を手がける中小メーカーだ。いわゆる「町工場」が多いエリアにありながら、その佇まいは従来の製造業のイメージから大きくかけ離れている。明るく、清潔で、洗練されている。どこか「古くて汚い」と見られがちな業界において、この新社屋は明らかに異質な存在だ。
「古い、汚い工場で働いていて、モチベーションが上がる人は少ないですよね。僕は、社員に前向きな気持ちで仕事をしてほしいんです」
そう語るのが、代表取締役の伊藤芳樹さんだ。
伊藤さんは2023年に代表に就任すると、真っ先に新社屋の建設に踏み切った。
製造業が共通して抱える課題——人手不足。若い世代が集まらず、事業の継続そのものが危ぶまれる。製造業の多くのリーダーは、生産性向上や省人化、高付加価値化といった「生産」の側面から打開策を探る。しかし、伊藤さんの視点は違っていた。
「昔ながらの職人気質の人は、事務スペースはお金を生まないと考えがちです。どちらかというと工場を広くして生産を上げるほうがお金になると。でも、僕はオフィスも同じくらい大事だと思っています」
人が集まらないのは、仕事がきついからだけではない。環境が、そうさせているのではないか。生産業務を改善しただけで本当に人は集まるのか。伊藤さんは、製造業に別角度から問いを投げかけている。


Section 2メンテナンスを強みにすることの長短
西田製作所が手がけるのは、メッキ加工や表面処理を行うための装置・設備だ。
主にキャリア式、エレベーター式という2種類があり、完全オーダーメイドで設計・製造する。その仕事は「こういうメッキがしたい」という顧客の一言から始まる。亜鉛メッキ、すずメッキ、アルマイト、要望に応じて薬品メーカーと打ち合わせをし、工程を組み立て、敷地や作業動線まで含めて設計していく。装置の納入先は、自転車部品から電子部品、航空機関連まで多岐にわたる。西田製作所の装置は、ものづくりの現場に欠かせない存在となっている。
だが、ライバルは少なくない。
その中で同社が強みとしているのが、徹底したメンテナンス体制だ。
「電話がかかってきたら、すぐに行ける体制を整えています。他社だと一週間後ということも珍しくありませんが、うちは“止まったらすぐ動かす”を大事にしています」
どんな機械も、いずれ壊れる。にもかかわらず、劣化や故障に向き合うメーカーは多くない。いつ起きるかわからないトラブルに人員を備えるのは非効率。そんな考えが一般的だ。だが、西田製作所は違う。「機械設備の製造は、製造業であると同時にサービス業である」という考えを大切にしてきた。装置を納めて終わりではない。「止まらない現場」まで含めて、同社の仕事なのだ。
一方で、それによって従業員の負担は大きくなる。土日やGW、年末年始であっても、呼び出しがあれば現場へ向かう。それが当たり前だった会社に、伊藤さんは従業員の本心を代弁するように、こう投げかける。
「世間が休んでいるときに、僕らは仕事に行くんですよ。正直、休みたいですよね。そんな条件でも働きたい職場って何だろう…」
異業種から入社した伊藤さん自身の、偽らざる気持ちだった。
Section 3建築士が見た、メッキ加工現場の違和感
伊藤さんが西田製作所に入社したのは6年前。もともとはゼネコンに勤める一級建築士だった。創業者の一人娘と結婚し、会社がトラブルに直面したことをきっかけに助けを求められ、入社を決断する。建築士としてのキャリアを歩み続けるつもりだった伊藤さんにとって、大きな転機だった。設計部門での3年間の修行を経て、代表取締役に就任した。
顧客先を訪れ、初めてメッキ加工の現場を見たとき、率直にこう感じたという。
「きつい、汚い、危険。いわゆる3Kをリアルに感じました。特に建築士として“危険”がある状況が気になりました。塩酸などの薬品が、無造作に置かれている。正直、僕ならここでは働かないな、と思いました」
建築のプロだからこそ、見えた景色があった。技術や品質には徹底的にこだわる一方で、それを生み出す環境への意識が置き去りにされている。
「これは変えなければならない」。
建築士としての誇りが、使命感へと変わった。
人が集まらなければ、業界は衰退する。メッキ加工業界が縮小すれば、その装置をつくる自分たちの未来もない。だからこそ、まず自分たちが変わり、それを業界に波及させていかないといけない。
そして、伊藤さんが掲げたのが、新しい3Kだ。
「格好良い」「健康」「給料が良い」
「人を集めるには、やっぱりお金は大事。そして安全で、健康的に働けること。その上で、誇りを持てる仕事であること。でも、技術の凄さを誇っても若い世代には響かない。では何に誇りを持てるのか。その答えが“格好良い”だと思ったんです」


Section 4建築の思想で、製造業を描き直す
建築は、機能とデザインを統合する仕事だ。
伊藤さんの考える「格好良い」の根っこには、そんな考えがある。少し乱暴に言い換えれば、「内」と「外」が伴うこと。職人・技術者としての誇りがあっても、外見の「格好良さ」が従来の業界にはなかった。製造業の「格好良さ」を設計し直す。
その象徴が、新社屋だった。そして、ユニフォームやコーポレートサイトも刷新した。
「建物にかけるお金があるなら、製品の価格を下げろ、という声もありました。でも、“格好良い”という価値観を認めてくださるお客様もたくさんいます。そういう方々と、一緒に業界を盛り上げていきたい」
伊藤さんは一級建築士の経験を活かし、新サービスも打ち出した。
装置だけでなく、その建屋ごと設計・建築するというものだ。設備導入のタイミングで建屋の改修まで手を入れたいというニーズはあるが、時間もコストもかかり、実行に踏み切れないケースがほとんどだ。その壁を装置と建屋の一体で乗り越える。さらに安全性や労働環境の改善、環境対策、そして美しいデザインを含めた総合設計を目指す。伊藤さんが思い描くのは「工場っぽくない工場」が当たり前になる未来だ。
「建築の設計は描いたものが動くことはありません。でも、この仕事は違う。設計した装置が動いた瞬間は、我が子みたいに可愛いんです」
ものづくりへ情熱を注ぐことは、格好良い。製品には職人の魂が宿っている。それを受け継ぐためにも、今のままではいけない。伊藤さんは製造業の「格好良い」を描き換え、若い世代も誇りを持てる世界に変えていく。今、そんな姿勢に共感する若い社員が同社に少しずつ集まり始めている。製造業は、まだ変われる。その可能性を西田製作所は示している。

株式会社西田製作所
〒547-0005 大阪府大阪市平野区加美西1-15-7
TEL:06-6791-3841(代表) 06-6791-3808
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