商品カラーやデザインなどの企画から手がけた自社ブランドクロスバイク「DAITORA-BIKE」。
「スタイリッシュなフォルム」と「手ごろな価格」が特長だ。内蔵型バッテリーのコストカットを実現するとともに、豊富なカラーバリエーションを展開。スマートに街乗りを楽しめる1台として注目を浴びている。
国際都市・青島から日本に渡り
起業家の道をめざす
中国と日本。お互いに強く意識しあう存在でありながら、文化の違いによるズレを感じることも少なくない。異文化への適応に多くのビジネスパーソンが頭を悩ませる中、双方の文化的特長を捉えつつ手腕を発揮する人物がいた。
中国出身の起業家として、両国の違いを肌で体感しながら独自の商才を発揮してきた大野創世さん。大野さんが思春期を過ごした山東省の都市・青島では当時、韓国や日本の企業が数多く存在しており、自然と国際的なビジネスへの関心を強めていった。そんな中、中国での大学受験がうまく行かず、「それなら韓国か日本で学びなさい」という母の一言で、来日を決意したという。
来日後は語学学校に通い、日本の大学に進学。経営学などを学ぶと同時に、インバウンド向け免税店でアルバイトをしながら営業活動の極意を習得した。大学卒業後は会社員として勤務しつつ、友人の「一緒に起業しようよ」という一言を受けて、中国人向けの観光バス事業を主軸とする旅行会社の設立に協力。書類作成や各種申請をサポートするなど、会社員と会社役員の二足の草鞋を履いていた。さらに自らも観光バスを運転するために、大型自動車免許を取得したというのだから驚きだ。
きめ細かなニーズのヒアリングから
まだ見ぬ日本の魅力を伝える
共同経営の会社が黒字に転換した2018年。大野さんは役員を退き、観光・旅行事業を営む企業「株式会社大寅(以下、大寅)」を新たに設立した。同社の主な顧客層は海外から訪れる家族連れや親戚など、15名から20名ほどの少人数旅行客。マイクロバスや中型バスを貸し切り、さまざまな観光地を案内することで、日本の新たな魅力を知ってもらうことができる。
多くの場合、初回の観光では大阪城や心斎橋といった定番の観光地を巡る。その中で、「おいしいお店に行きたい」「話題のスポットに連れて行ってほしい」などの要望を可能な限り拾い上げてきた結果、リピーターとして2度目、3度目の観光旅行に利用していただけることが多いのだという。2度目の旅行では、京丹後のカニ食べ放題ツアーをはじめ、忍者村、美術館、科学技術館、スタジアムやドームでのスポーツ観戦など、1度目ではわからない魅力を体感できるプランを提案するのだそうだ。
きめ細やかなサービスを通じて事業は大きく成長。およそ1年間でバスを10台ほど増大した頃、新型コロナウイルスが世界を席巻した。中国からの訪日観光客が皆無になり、突如、目の前が真っ暗になった。なんとか会社を存続させようと、急激に増加するマスク需要を捉え、中国からマスクなどの衛生製品を仕入れて販売する事業を開始。しかし、世界的な物流のストップにより、約2か月遅れで到着した商品の市場価格は半値以下に下落。綱渡りのような状態のまま、翌年も感染症の猛威は収まることなく、観光事業を再開できる兆しは見えてこなかった。
逆境を乗り越える力は
発想の転換から生まれた
転機となったのは、クラウドファンディングを活用した電動自転車の通販事業だった。
「『電動アシスト自転車でいこう』と考えたのは直感です。コロナ禍以来、多くの人が公共交通機関の利用を避け、マイカーや自転車での通勤に切り替えていました。そこで当社は、中国の大手電動自転車SamewayGroup日本総代理店との契約を結び、電動アシスト自転車の製造・販売をスタートしました。自転車の需要が世界的に高まる中、フレームにバッテリーを内蔵したスタイリッシュなデザイン、比較的手ごろな価格が特長の当社の製品は、クラウドファンディングでも良い反応をいただけるだろうと考えていました」と、大野さんは当時の状況を振り返って語る。事実、初回のクラウドファンディングは多くの人々から支持され、5,000万円近くにもおよぶ支援金が集まった。現在、同社は自社ブランドのロードバイク「DAITORA-BIKE」の販売に注力。大寅ブランドは、電動自転車の市場におけるシェアを伸ばしている。
また、同社は電動自転車のクラウドファンディングで得たノウハウを活用し、新たな事業にも挑戦している。中国メーカーと共同でのオリジナル家電製品の開発・製造もその一環だ。クラウドファンディングを通じて、顧客ターゲット層・ニーズ把握などのテストマーケティングを経てインターネット通販を行っている。今後その中で重要視していきたいのは、ものづくりを担当する中国の工場まで足を運び、製品の製造工程の管理や検品などの品質チェックを入念に行うことだ。送られてきた商品サンプルや参考写真がどれほど良く出来ていたとしても、実際の商品を手にとって眺めるまで品質は保証できない。感染症拡大のおそれがある現在は中国への渡航が難しいが、コロナ後はこの点をクリアし、インターネット上のさらなる販路拡大を大野さんは視野に入れているのだという。
それぞれのカルチャーを理解し、独自のビジネスを切り拓く
中国と日本、それぞれのカルチャーの違いを大野さんはこう語る。
「中国の企業は良くも悪くも大らかで、薄利多売の傾向があります。製品の単価が安く利益を出しやすい代わりに不良品が発生することもあり、『不良品が出ても新しい製品と交換すればOK』と考える企業も中には存在します。私は中国流のやり方は効率的だとは思いますが、あまり賛成はできない。やはり、たしかな品質の製品をお渡しすることが大切です。その点、日本の企業は品質重視の傾向が強く、コストはかかりますが品質は保証されています。それぞれのカルチャーをすり合わせるのは大変ですが、メリット/デメリットを知り、双方の良い点を併せ持つ当社独自のビジネスを構築していきたいです」
大野さんは今後、観光事業とクラウドファンディングを活用した電動自転車関連事業を並行して手がける予定だという。一時期は低迷しているかに思えた観光事業は現在、日本国内に滞在する外国人留学生や研修生などの団体客が好んで利用するサービスに転換しているのだという。常に新たな商流や新規事業へのアンテナを張り、中国と日本、それぞれの特性を知り尽くした独特の国際感覚でビジネスの大海原をゆく大野さんのスタイルは近い将来、ビジネスのグローバルスタンダードとなるかもしれない。
COMPANY会社紹介
株式会社 大寅
〒551-0003 大阪市大正区千島3-11-13 グリタビル6F
TEL:06-6616-9714
URL:https://daitora-group.com/
- 当社支援内容
- 事業再構築補助金