プラスチックの未来を
モノづくりから探る。

シンワパックス 株式会社

代表取締役 小西 栄輝さん

高校生のとき、アルトバイトで家業を手伝い、モノづくりの楽しさに触れる。大学進学、就職を機に家業から離れるが、「会社を継がなくてもいいから戻って来てほしい」という父親の誘いに応じる。当初、社長就任は頭になかったが、天職であるモノづくりを社員とともにもっと発展させていきたいという思いから腹をくくり、事業を継承した。

シンワパックスの強みは、多様な形状にも応える提案力と技術力。プラスチックは気温や湿度の少しの変化でも仕上がりに大きく影響する。それを繊細に感じ取って成型に落とし込むことができるのは、持ち前の提案力で様々な試作に挑戦し、培った膨大な経験があるからだという。

Section 1

生活雑貨店や家電店を訪れると多種多様な商品が並び、見るだけでも楽しい。普段はその商品ばかりに目が行きがちだが、ひとつひとつのパッケージにも注目するとプラスチックが多用され、商品に応じて独自の形状になっている。さりげなく商品を引き立てるなかに創意工夫や技術が詰まっている。
このパッケージをはじめとしたプラスチックの真空成型において「難しいものはここに任せれば大丈夫」と厚い信頼を得ている企業がある。シンワパックス株式会社だ。

真空成型とは加熱した樹脂(プラスチック)を金型に置き、樹脂と金型を真空状態にして成形する技術。機械部品や医薬品、食品などのトレーや緩衝材などにも欠かせないものであり、いずれもシンワパックスは得意としている。
「中身の商品や製品はひとつひとつ異なりますし、商品の見せ方や保管・運搬に対するニーズもさまざま。毎回異なる依頼をもらい、どう形にしていくか。それを考えるのが好きなんです」と代表取締役の小西さん。

ある時、ペットボトルでプチトマトを栽培できる「ペットマト」のパッケージ改良の依頼が舞い込む。
コストに制限があるなかで、いかに商品の魅力をひと目で伝えられるか。小西さんはそのオーダーにポッチ式ブラスターという新手法で応えた。台紙の四隅には小さな穴、ブラスター(プラスチック)の四隅にはその小さな穴に嵌る凸型のポッチをつくることで、ブラスターの折り曲げや糊付けなどが不要で両者を接着できる、業界初のアイデアだ。パッケージ改良以来、同品の売れ行きは右肩上がりになり、通算100万個が売れた。
「独りよがりで技術やアイデアを生んでいくのではなく、お客様との出会いの中で具現化できる。それがとても楽しい時間なんです」。

Section 2

小西さんは大学を卒業後、印刷会社に就職する。徹夜も当たり前のような激務だったが、仕事は楽しかった。しかし、両親はその働き方を心配し、小西さんを呼び戻す。久しぶりに家業に戻り、目に入った現場は小西さんにとって「ぬるい」と感じた。仕事があっても残業なんてありえない。「いや、もっと頑張られるだろう」というのが、前職で染みついたマインドだった。

ところが、すぐにそのマインドが切りかわっていく。
自社サイトを改修し、Webからの問い合わせが増えた際に、顧客アンケートを実施した。Web閲覧から取引に至るなかで、なぜ当社を選んだのかを知りたかったのだ。
「価格で選ぶ人はいなかった。ほとんどが提案や対応がよかったという答えでした。だから時間を惜しんで大量につくって価格で勝負するのは間違いだと気づきました。物量や価格ではなく、提案力や高付加価値が当社のポジションなんだと」

すると現場の景色は違って見えてきた。物量という色眼鏡を外せば、一人ひとりの仕事の質は高く、けっして「ぬるい」わけではない。もっと技術力と企画提案力を磨き、高価格でも勝負できるように舵取りをしていくことが自分の役割だと気づいたという。以来、従業員が残業する機会がさらに減るも、会社は成長を続けた。

Section 3

シンワパックスは、同業他社から「業界のブラックバス」と言われることがある。新しい素材が開発されたり、これまでにない形状を求められれば、成型のテストが必要になる。手間もコストもかかるため、多くの成型業者がやりたがらないところを好んで行い結果を出す。その好奇心旺盛なスタイルは他社にとって脅威だ。妬みの混じった表現に小西さんは苦笑いだが、めざしてきたポジションが確実なものになってきた証でもある。

業界で存在感を強めるシンワパックスだが、今、業界そのものが足元から揺らぎはじめている。プラスチックが環境にもたらす様々な問題から、世界中で「脱プラ」の波が大きくなっている。
「私たちが用いている主な素材は、ペットボトルをリサイクルした再生PETです。プラスチックの循環に取り組んでいますが、さらに出来ることを考えないといけない」。

小西さんは新事業としてリサイクル事業をスタート。「ライメックス」という新素材の端材を回収し、再利用のためのペレット化に取り組んでいる。「ライメックス」は石灰石を主原料に化学樹脂を2~5割混合したもの。プラスチックよりも環境負荷が少ないが廃棄されては意味がないため、再利用の図を同社が描こうとしている。
「リサイクル事業は第一歩でしかありません。プラスチック問題のなかで最も懸念されているのは海洋プラスチック問題。現在、海洋で分解できる新たなプラスチック開発の動きもあります。私たちには数多くの新素材を成型してきた経験がある。それを活かし、環境負荷のない素材を利用しやすいものに変え、社会に広めていきたい。さらに捨てずに循環するシステムもつくっていきたい」。

Section 4

小西さんは今、仕事のあいまに紙芝居の構想を練っている。
「小学生向けのワークショップを開き、真空成型を知ってもらい、プラスチック問題を考えてもらう機会を提供しています。その際に市販の絵本を使っているのですが、より楽しく学んでもらうために自作の紙芝居をつくろうと考えています」。

そこには、プラスチック問題への正しい知識を学んでほしいという強い思いがある。
「プラスチックは悪者、環境の敵と言われていることに納得がいかない。もしプラスチックを完全に無くすのなら、それに代わる大量のモノを新たに生み出さないといけない。その製造エネルギーは本当に環境に良いといえるのか。そうではなくプラスチックを再利用すれば衣服や寝具などの生活必需品として役立つこともあるわけです。海洋プラスチック問題も、そもそもなぜ海にプラスチックがあるのかを考えないといけない。原因はプラスチックなのか。人間のモラルなのか」。

木を見て森を見ず。ひとつの視点に囚われると、問題の本質を見誤ってしまう。プラスチック問題を俯瞰的にとらえることで、建設的な考えが生まれ、持続可能な社会を築いていくことができる。その担い手になっていく子どもたちに小西さんは積極的に働きかける。アイデアと技術で豊かさを実現できるモノづくりの精神と、プラスチックの未来を託すために。

シンワパックス 株式会社

〒577-0062 大阪府東大阪市森河内東1-38-26
TEL:06-6782-3082
URLhttps://www.shinwapax.co.jp/

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