釣りの現場から見た未来。
エコなケースで海洋保全へ。

株式会社 アングラベース

代表取締役 北村 東太さん

1983年に創刊された釣り情報誌「週刊つり太郎」を亡き父から引き継ぎ、20212月の休刊まで2000号以上を毎週発行した。大分の海を観察する中で感じた海洋汚染や地球温暖化の影響を危惧し、環境にやさしいスマホケースを現在の主力製品として扱う。

情報誌の資産である魚のデータをプリントすることからスタートしたスマホケース事業。釣り具メーカーと提携し、ロゴを印刷した製品も。植物由来の生分解性プラスチックを原料とした環境にやさしいケースは環境保全への意識が高い釣り仲間から広がり、現在はECサイトで全国に販売している。

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「時代は変わりました。これからも変わっていく」。そう語るのは大分県で印刷・雑貨製造販売を営む株式会社アングラベースの代表・北村東太さんだ。彼が口にする「変化」には重みがある。アングラベースが発行していた「週刊つり太郎」は、時代の流れに押し出されるようにその40年の歴史に終止符を打った。最盛期には1万部近い発行部数を誇った地元の釣り情報誌だったが、インターネットの普及による書籍離れを背景に、20212月に休刊を宣言した。

釣り場は日本各地にあり、季節とともに様々な表情を見せる。そのため全国誌ではなくそれぞれの地域で情報誌を出すことが一般的だった。大分県唯一の釣り情報誌「週刊つり太郎」を創刊した父は北村さんが30歳の時に急逝。すでに父とともに週刊誌の仕事をしていた北村さんだったが、元々釣りに興味があったわけではなかった。「私にとって、釣りは趣味ではなく仕事でした。仕事だからこそ、楽しいだけではない現場の問題にも真剣に向き合うことができたんです」。

週刊誌を発行していた当時は、取材からライティング、紙面のレイアウト、デザインなどほぼ全てを代表の北村さん自身で手掛けていた。大分の釣り場の情報を中心に、魚釣りの全国大会があれば五島列島や沖縄などにも足を運んだ。「釣り人と一緒に船に乗って、帰宅したら記事レイアウトをして・・・週刊なので休む暇はありませんでした」。
そんな日々も、40年の中で徐々に変わっていった。旬の時期がずれ込み、今まで大分で釣れなかった魚が見られるようになってくるなど、北村さんはその異常な変化を肌で感じていた。

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筆を折った理由は、印刷業界の縮小だけではない。「魚が減ってきて、書ける情報もなくなったんです」。異常気象と言える長雨が増え、紙面が埋まらないことが徐々に多くなったという。誰よりも近くで、長年大分の海を見てきた北村さん。釣りの楽しさを伝えたくても、今後の釣りについて不安なことしか書けないと感じたとき、情報誌への情熱も消えてしまった。

休刊を告げたときは読者から非常に惜しまれた。取材で知り合った釣り人や漁師からは今でも連絡が来て、地域の海や釣りについて情報共有をしている。スマートフォンが台頭し、徐々に印刷業界が厳しくなっていることを感じていた北村さんは、情報誌の発行と並行して新しいビジネスを模索していた。10年ほど前には、釣った魚に毒がないか・食べられるかをその場で調べる有料アプリも開発した。すべて自分でやってしまう北村さんらしく、独学でプログラムを書いた。「DL1位になったこともありました。でも結局、その一発で継続は難しかったんですよね。ただ、これからはスマホの時代だとは確信していたので、スマホに関わるビジネスをしようと思っていました」。

北村さんはこれまで情報誌で培った印刷・レイアウトのスキルや、画像データをスマホケースに活用できないかと考えた。スマートフォンの普及率が低かった当時、画期的なアイデアだった。初動時はこれまでのターゲット層でもある、釣り愛好家に向けた魚のデザインのスマホケースを製作していたが、彼らの家族からペットの写真を印刷してほしいといった要望なども入り、徐々にデザインのジャンルも拡大していった。現在のデザイン数は5000以上、対応する機種も500を超え、オンラインショッピングモールへなどで年間25千個を販売している。

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釣り情報誌の役割は終わったと考えている北村さんが、「週刊つり太郎」で得たもの。それは環境問題への危機感と使命感だ。「僕たちが子どものときに遊んだ自然を孫世代にも遺したい。残念ながらそれはすでに不可能なことでしょう。少しでも海洋汚染や温暖化を食い止めることが我々の責任だと考えています」。情報誌の仕事を通して、半世紀近く海を見てきた北村さん。環境問題への取り組みはライフワークだと語っている。

現在アングラベースが販売するスマホケースは生分解性プラスチックを使用した「環境にやさしいケース」だ。広く普及している石油由来のプラスチックとは異なり、最終的に土に還る素材のため、地球環境の面で他社ケースと差別化できると北村さんは考えている。素材だけにこだわるのではなく、デザイン性や印刷のクオリティも重要視し、金型を自ら用意した。生分解性プラスチックの加工技術がある中国の工場からケースの成形品を仕入れ、アングラベースで印刷をする仕組みだ。受注分だけを印刷するため、ビジネスとしては在庫を抱えにくく、資源の節約にもつながる。将来的にはエコロジーインクを導入することも検討中だ。

生分解性プラスチックは、湿度6080%を維持したコンポスト環境であれば2ヵ月ほどで一次分解され、その後微生物による分解を経て、最後は水と二酸化炭素になる。従来のプラスチックよりも二酸化炭素の排出が3分の2抑えられるという。機種変更などでケースを新調する際には、新しい購入品に返送用封筒を同封し、戻されたものをアングラベースで処理するサービスをしている。古くからの顧客層である釣り人や漁師たちは、北村さんと同じく環境の変化に対する懸念が強く、環境保全への意識も高い。新しいケースの購入にもつなげられるため、リピート率も高くなる。

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アングラベースはアメリカのAmazonにも出店をしている。アメリカのAmazonではClimate Pledge Friendlyという項目があり、カーボンニュートラルなどのサステナブルな製品であると認証を得るとバッジが付与される。現地ではこの認証バッジが付いている製品を購入するのが主流となっていて、北村さんが手掛けるスマホケースには、この緑の認証バッジがしっかりと付いている。「これはドイツの専門機関の審査を受けて取得したもので、近い将来に日本のAmazonでも導入されると聞いています。その時には我々の商品が先駆けてバッジが付くので、ビジネスでもスタートダッシュが切れると考えました」。北村さんのモットーは、ビジネスにおいても持続可能であること。環境保全への取り組みだけに注力するのではなく、自分たちの今の暮らしを維持するための事業づくりを考えていく。

長年大分の海の情報を分析してきた北村さんを頼って、県の環境対策推進室からデータ提供を依頼されたこともあった。九州のスタートアップの企業と第二創業の企業がプレゼン・PRをするイベントに大分県代表で参加した際には、ビジネスではなく環境問題のことを熱く語った。「釣り仲間と将来を憂いているだけでは何も変わらない。環境に配慮したスマホケースの市場がもっと大きくなれば、耳を傾ける人も増えるはず。海洋汚染や温暖化の現状を知ってしまったからには、広く世間の人々へ伝えて、保全への取り組みを進めていくのが自分の使命だと思っています」。

地球温暖化への認識や取り組みについて、10年前よりも意識が高まっていると北村さんは感じている。これからさらに10年後には、SDGsの考え方が当たり前になっていてほしいと語る。「近年のアウトドアブームも手伝って、自然環境保全への関心は強まっています。今後は生分解性プラスチックを活用したアウトドア食器など、スマホケース以外の製品化にも挑戦します。これ、バイオプラスチックじゃないの?時代遅れだね、って当たり前に言われる社会をつくるために、BtoB商品の開発にもさらに力を入れていきたいですね」。釣り情報誌が啓発した未来に目を背けず、我々消費者は正しい選択をしていかなければならない。北村さんが大分の片隅で起こした波紋はやがて大きなうねりとなり、全国へ広がっていくだろう。

株式会社アングラベース

〒8701152 大分県大分市上宗方391-2
TEL:097-542-0560
URL:https://anglers-case.com/

当社支援内容
事業再構築補助金(グリーン成長枠)
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