多種多様なホビー商品を取り扱うとともに、遊び方や楽しみ方のノウハウも伝え、ホビー商品の魅力を発信している株式会社マルク。小売店の立場に立った情報提供やオーダーシステム、専門性の高い知識を強みに、小売店とのネットワークは全国に広がっている。人の人生に楽しさや感動を提供するホビーに関わることへの誇りを感じ、65年以上に及ぶ実績を積み重ねてきた。(写真は自社商品「にゃんぼー」のプラモデル)
父から受け継いだのは
ホビーの楽しさを広げること
株式会社マルクの物流倉庫にはワクワクが詰まっている。ガンプラや鉄道模型、ジオラマなどの商品が何千と積み重ねられ、巨大な宝箱に迷い込んだようだ。歩くたびに好奇心をくすぐられる。コロナ禍によって在宅時間が増え、子どもの頃に好きだったプラモデルやラジコンを再び始めた人も多いと思う。作ったり、動かしたり、飾ったり、年齢を重ねても変わらない普遍的な楽しみ。それを全国各地に届けているのが、ホビー商品の卸業を営むマルクだ。「モノを作る楽しみは永遠に変わらない」と話す代表取締役の久野さんは、多くのユーザーと楽しみを共有できることがこの仕事の一番の喜びだと感じている。
マルクの原点もそんな楽しみの共有だった。創業者である久野さんの父は、ワイヤーを用いて操縦する模型飛行機Uコンが大好きで、全国飛行大会で優勝するほどだった。その父がプラモデル好きの兄を誘い兄弟で「この楽しさをもっと多くの人に知ってほしい」と商売を始めた。「好きなことをビジネスに」というフレーズは今よく聞くが、久野さんの父はさらに一歩進んで「好きなことを共有できるビジネスを」という発想を戦後間もない頃に持ち起業した。そうした中で父が最も楽しみを共有したかったのは息子の久野さんだったかもしれない。「父にはよくUコンやラジコンの大会に連れて行かされましたよ」。
しかし父の期待とは裏腹に、久野さんが夢中になったのはUコンではなく、その後継ともいえるラジコンだった。友人の誘いでラジコンのバギーを始め、その後にラジコン飛行機に夢中になっていきました。「父も母も放任してくれましたね。好きなことに熱中すれば道は外れないと、家業の環境で自由に遊ぶのを許してくれました」。もしかしたら久野さんの父は自分と同じようなホビー仲間ができて嬉しかったのかもしれない。一方、久野さんは自分自身がラジコンづくりに熱中することで、「ホビーの楽しみを誰かと共有したい」という商売に込めた父の思いを理解した。将来の進路を考える頃になると、家業を継ぐ意志が自然と定まっていたという。
ホビー文化の発展のため
「ニーズにいち早く応える」がモットー
「モノをつくることが好きで家業を手伝いはじめしたが、商売や経営がどんなものなのかは分かりませんでした」。久野さんは実地でビジネスを学ぶことになるが、それは常に「変化への対応」であった。モノを作ったり、動かしたりするという楽しみは変わらないが、ホビー商品の形は時代とともに変わり続けている。Uコンからラジコンへ、木製模型からプラモデルへ。特にガンプラの登場はホビー商品の世界を大きく変えた。「それまでは飛行機や建物などの実際にあるものを縮尺したプラモデルが中心でしたが、漫画やアニメのキャラクターが登場し、プラモデルをはじめホビー商品の対象が一気に広がりました」。以来、ホビー商品の多様化が進み、現在では約3万5000種類以上の商品を取り扱うまでに。新しい商品が登場するたび、その世界観を学び、マーケティングの視点から販売を検討していった。ホビー商品を楽しむ人たちが増えることが嬉しい。そうした人たちのニーズにどう応えていくがビジネスの柱になっていった。
変化は商品だけはなく、卸業のスタイルにも起こった。ホビー商品の人気が高まるにつれ、エンドユーザーが全国に広がり、地方の顧客も増えていった。マルクは大阪の問屋街だった松屋町に店を構え、販売店が直接買い付けにくるスタイルで営業していたが、それでは顧客の広がりに対応できない。「店を構えて商品を卸すのではなく、ロジスティックに近いスタイルに変えていかないといけない」。商品を待っているすべてのエンドユーザーに「楽しみ」を届けたいという思いが、卸業そのものを変革していくことになった。
卸業とロジスティックが融合する
独自システムを確立
初めは電話やFAXで注文を受け付け、全国出荷に対応するものだった。そこにインターネットが登場すると、Webによる受注をスタートさせ、在庫管理や出荷の仕組みを整えていった。顧客へ商品を届ける最善の方法は何か。それを考える姿勢が常にあったので変革に迷いはなかったと話す久野さん。「今では受注も、在庫や出荷の確認も、ひとつのIDがあれば行えます」。過去には、新規の顧客から問い合わせが来れば、商品のリストを送り、掛け率や条件について何度もやり取りを行うなど、膨大なエネルギーが必要だった。それがすべてWeb上で完結する。顧客が自身のIDでログインすれば、小売価格から納入価格、在庫までを簡単に見ることができようになったというのだ。
データベース化した商品数は約30万点を超える。さらにメーカーとマルク双方が在庫状況をオンラインで把握できるといった在庫管理機能の構築、また2次元コードとハンディターミナルの活用による入出庫管理やピッキング作業の効率化なども行い、独自の受発注・商品管理システムを進化させていった。それだけに留まらず拠点を移転し、倉庫の拡充も行った。まさに卸業とロジスティックを融合させたスタイルをつくり上げている。
「お客様から新たなご依頼やご要望があれば対応できるように、今もシステムの開発を続けています。たとえば、受注残をリアルタイムで確認できるシステムもそうです。受注残とは受注商品のなかで在庫がなく未出荷になっているもの。それが分からないとお客様が困りますからね。受注残を忘れて追加注文されることもあり、受注残の伝達は松屋町の時代からこだわっています」。
ホビーから得られるモノづくりの素晴らしさを
子どもたちへ届けたい
マルクのシステムはあらゆる形態の商品に応用できる。これがあれば時代の変遷によって商品が変わろうが、新分野の商品を売り出そうが、常に最適解で顧客に届けることができる。業種が変わっても商品をより良い方法で顧客に届けたいという気持ちは同じ。自分の思いと近い人たちの力になりたいという考えから、新事業の立ち上げも進めているという。
一方で、久野さんはホビー商品に話題を戻し、「エンドユーザーの固定化や高齢化を危惧しています。子ども向けのプラモデルイベントに参加したとき、参加者の7割がプラモデルを知らないという事実に唖然としました」と話す。デジタル化や遊びの多様化が進む中、プラモデルやラジコンは大人のものになりつつある。ガンプラが登場した当時に子どもだった世代がそのまま大人になりユーザーであり続けているが、若い新規ユーザーは増えていない。各メーカーは若年層向けの商品開発を進めているが、なかなか実を結んでいない。また、ホビー商品にはモノづくりや科学を学べる要素があるため、教育に生かそうという動向もあるが、まだ小さな動きでしかない。
「ホビー商品の文化を伝えるために努力していきたい。そのために利益をあげ、新しいユーザーの芽をつくることにお金を使えるような会社になっていきたい」。久野さんはデジタル化がいくら進んでも“モノをつくる楽しみ”に変わるものはないと確信している。それを次世代のニーズに応じた形で提供できれば、子どもたちもその楽しさにきっと気づいてくれるはずだ。久野さんの次なる目標は、次世代との楽しみの共有だ。