人も環境も良くする輪を
石垣島から未来へ広げていく

農業生産法人 (有)やえやまファーム

山中 広久さん(左)、山内 浩さん(右)

やえやまファームは、ロート製薬のグループ会社として石垣島をはじめとする沖縄の自然の恵みを生かした「食」を届け、心身の健康づくりを支援している。山内さんはロート製薬から出向し加工製造の責任者を務める。山中さんは本土から移住し就職、農産部にてパイナップル栽培に携わる。社員の中には本土からの移住者も多く、同社の理念に共感し、全国から就職者が集まっている。

やえやまファームでは農業・畜産業の6次産業化を推進。土地づくりから製品加工、流通・販売までを一貫して行うことで各工程のロスをなくし、廃棄物を極限まで減らすことを目指している。
なかでも、畜産で発生する糞尿を発酵させて農場の堆肥に使い、パイナップルを加工する際に廃棄される絞りかすを豚の飼料として利用するなど、畜産と農業をリンクさせた循環型農業を展開していることが最大の特長だ。日本で唯一有機JAS認定を取得しているパイナップル、そのパイナップルの絞りかすを飼料として与えた南ぬ豚(ぱいぬぶた)、さらには紅芋やシークワーサー、石垣牛などの多くの食品・加工品が人気商品となっている。

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南の太陽によって煌めく青と緑。そのあいだを車で走り抜けていく。石垣島をドライブすれば、透き通る海の青さに目を奪われるだけでなく、緑の美しさに気づく。空を目指しまっすぐ伸びるサトウキビ、風に揺られ靡く広大な牧草など、石垣島ならではの緑が広がる。島の先人たちが自然を想いながら農業を営み育んできた豊かな緑を持続可能なものへ。やえやまファームで働く方々と話すと、そんな想いが言葉の端々から感じられる。

「私たちの農業・畜産業から生まれる『食』を通して人の心身を健康にしたい。そして地域社会や地球環境も良くしていきたい。そんな『良くする』輪を広げていきたいんです」。やえやまファームの理念について語る山内さんは約10年前にロート製薬から出向し、同社を支え続けてきた。「これまでに台風でパイナップルが全滅したこともありますし、収穫前にイノシシに食べられて収入がゼロになったこともありました」。その苦労は我々の想像もつかない。それでも山内さんの情熱は尽きなかった。4年目を迎える取締役の北川さんは自ら手を挙げ、ロート製薬からの出向を志願した。ここには、お二人のように同社の事業に魅了され、その発展に苦労を厭わない方ばかりだ。社員を突き動かすものは何か。お二人の話のなかで感じたのが、都会にない価値観との出会いだ。パイナップルの生育には約2年もかかる。変化の激しい時代にあって効率化やスピードを求めるビジネスの世界とはまるで違う。人智が及ばない自然の力を思い知ることも多い。「石垣島の人たちとの出会いもそうです。8時に約束したら8時に家を出る。仕事の合間でも疲れたら昼寝をする。都会なら怒られるけど、ここなら当たり前。そんな現地の方々の自由な姿を見ると、何が幸せなのかを問われているように思うんです」。従来の常識や価値観が根底から崩れていく。石垣島で働くと、どんどん問いが湧き上がってくるという。本当の健やかさとは何か?人にも環境にも良いこととは何か?そのために何をすべきか?そうした問いへの答えを探し形づくってきたのが、やえやまファームの循環型農業だといえるかもしれない。

牛の飼育を担当する渡辺さんも都会になかった価値観に惹かれた一人だ。前職では金属工場に勤務。やえやまファームの事業に魅力を感じ、本土から移住し入社した。「体力的にしんどいですが、牛の観察は飽きないです」。畜産にとって日々の観察は欠かせない。病気やケガの早期発見こそが牛の健康を保つことになるからだ。「餌をあげたときに元気良く食べているかを入念にチェックします」と話す渡辺さん。都会で忙しく暮らしていると自分や家族の小さな変化を見落としがちになる。しかし、そんな変化への気づきこそが健康や相手との良好な関係をもたらすのではないか。牛と対面するなかで生活を見つめ直す問いが生まれてくる。

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渡辺さんは、牛はもちろん、人や環境にも健康をもたらす畜産を目指し、様々な工夫を行っている。そのひとつが独自の飼料だ。通常であれば濃厚飼料(穀物が主体の飼料)と牧草を別々に与えることが多いが、二つを混ぜた飼料を使っている。こうすることで牛の好き嫌いによって偏って摂取されることを防ぎ、どの牛も健康的に育ち、安心・安全な牛肉を提供できるという。また、肥育牛(食肉用に育てられる乳牛の雄牛)には泡盛かすに糖蜜を混ぜ発酵させた飼料を与えている。「これを与えると、牛のげっぷに含まれるメタンガスが減る効果があることがわかったんです」。石垣島では産業廃棄物の処分が禁止されているため、泡盛メーカーは泡盛かすを沖縄本島へ輸送し廃棄しなければならない。やえやまファームでは輸送時のCO2排出削減を目的に泡盛かすをメーカーから引き取り、飼料として再利用しているのだ。そんな飼料にメタンガス削減という思わぬ効果があることがわかり、『良くする』が広がる循環型農業の力に驚いたと渡辺さんは話す。

牛舎を一歩出ると、広大な牧草地が一面に広がっている。飼料となる牧草はここから採取されるため、飼料調達に関わる無駄なコストやエネルギーがかからない。この牧草地の管理を一手に引き受けているのが菊池さんだ。以前は本土でキャベツ農家をしていたが、循環型農業に触れたいと石垣島にやってきた。菊池さんの仕事は、伸びた草を刈り取り、乾燥させ、それを拾い込みロールにして保管することだ。「一日中トラクターに乗っていることもあります」。牧草の手入れは石垣島の美しい緑を整え描いていくような作業。菊池さんは自然を全身に感じ、循環型農業の一端を担う日々を送っている。

一方、別の作業小屋では、パイナップルの絞りかすからつくる発酵飼料の仕込みが行われていた。農産部で育てられたパイナップルはジュースに加工される。その時の絞りかすを廃棄せず、豚の飼料として活用している。養豚を担当する田所さんは「発酵には1年かかります。こうした餌を使っているところは見ない」と話す。養豚最大手の会社で長年働き、養豚を知り尽くしている田所さんでも、やえやまファームの手法は珍しかった。「以前の会社に定年退職後も雇用延長で勤めていましたが、好奇心が湧き、こちらにやってきました。この歳になって、こんなに面白いことができるなんて思っていませんでした」。循環型農業は畜産の道を究めた者でさえ惹きつける。発酵飼料を与えることで腸内環境が整い、栄養の摂取が進み、肉のうま味を深めていく。独自ブランドの「南ぬ豚(ぱいぬぶた)」は全国にファンがいるが、最大のファンは生産者の田所さんかもしれない。

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畜産場から車で数十分。パイナップル畑は美しい海を一望できる小高い丘に広がっている。化学肥料や農薬を一切使わない日本唯一の有機パイナップルが、ここで育てられている。その風味は格別で、口にするとえぐみや青臭さ、ぴりぴり感が一切ない。
農産部の山中さんは「自分たちが口にできる安全なものだけを使って育てたいんです」と話し、最初にどろっとした液体を見せてくれた。泡盛かすに納豆やヨーグルト、ドライイースト、グラニュー糖を混ぜて発酵させたもので、これをじょうろで一株ずつ丁寧に与えるという。泡盛かすは牛の飼料としても利用されているものだ。
「以前は動力噴霧器で撒いていたのですが、機械のパイプが詰まるので、手作業で撒くのがいちばん効率的なんです。この液に含まれている豊富な炭水化物が地面をコーティングしてくれ、草が生えにくくなります。以前は防草シートを全面に敷いていたのですが、この液を撒くようになってから半分で済むようになりました。防草シートは最終的に産業廃棄物として捨てざるを得ない。循環型をうたっているからには、いつか廃棄をゼロにしたいと思っています」。

山中さんは東京の大学を卒業後、不動産会社や貿易会社に勤務したが、利益を優先し目まぐるしく働く環境に馴染めず、レタス農家へ就職した。しかし、そこで当たり前のように使用されていた除草剤が身体に合わず、嘔吐する日々が続き、半年で退職。その体験から農薬を使用しない有機農業に興味を持ち、やえやまファームの門を叩いた。「汗をかきたくなかった人間が、今では汗まみれで働いている」。山中さんは石垣島に来て、人生が180度変わった。「有機でパイナップルができるわけがない。できたら土下座してやるよ」。他農家にそう言われて、石垣島に来る前のマインドだったら諦めていたかもしれない。でも、石垣島の自然や価値観、やえやまファームの人たちとの出会いが「絶対にできる!」と山中さんの心に火をつけた。

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現在パイナップル畑がある一帯には、元々多くのパイナップル農家が存在した。石がごろごろと点在する土地は水捌けがよく、その石にはミネラルが多く含まれ、パイナップルに適した環境だったからだ。しかし、機械化が進み、トラクターが走りにくいという理由で、多くの農家がこの土地を去った。他農家が機械に適した土地に移り化学肥料を加える「プラスの農業」にシフトする中で、山中さんたちは肥料を減らし従来の土地の地力を活性化させる、いわば「マイナスの農業」を貫いている。その地力の向上に欠かせないのが、畜産部で飼育されている牛豚の糞尿からつくられる堆肥だ。「実は窒素や硫酸カリウムなどの成分が0.03%しか含まれていないので、肥料としては成しえていないんです。あくまで地力を活性化させることが目的。地力を高めれば化学肥料がなくてもパイナップルは育ちます」。山中さんが入社当時7%だった収穫率は、2023年には50%に上昇した。「まだ半分は実がつかないわけですが、100%にするためには人の手が過度に加わり自然に負荷がかかる。農業を持続可能にするには50%がちょうどいいと思っています」。
山中さんは今、パイナップルの品種改良にも取り組んでいる。様々な品種を種から栽培し、交配を行う。新たな品種が生まれるまでに約1520年。気の長い話だが、都会のようなスピードはいらない。石垣島に流れるゆっくりとした時間が研究に合っていると話す。

やえやまファームでは、循環型農業を実践するだけでなく、その考え方を広めるために農業体験などの教育活動にも取り組んでいる。さらに山中さんはオーナー制度も検討中だ。「オーナーとしてパイナップルの生産により深く関わっていただくことで、循環型農業の認知が広がっていくと期待しています」。また、浅野哲史さんは「私たちの循環型6次産業の仕組みに、地元の農家さんも加わっていただけるように動いています。たとえば地元の農家さんが育てたパイナップルを弊社でジュースに加工し、絞りかすを活用する取り組みを始めています」と話す。同社の目標は『良くする』の循環の輪を広げていくこと。石垣島の自然や人たちから「良くすることとは何か」を習い、学んだことを石垣島、さらには社会全体へ還元していく。やえやまファームの人たちは未来の産業のあり方を世の中へ広げようと挑戦中だ。

農業生産法人 (有)やえやまファーム

〒907-0003 沖縄県石垣市平得554-1HALSERビル2F
TEL:0980-83-8788
URL:https://yaeyamafarm.net/

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