interview

お寺とまちを再び繋げ
お寺の明日を照らす

株式会社 TERASU 代表取締役 田中 元気さん

学生時代から起業家精神を持ち、卒業後に事業を起こすが上手くいかず、霊園の運営・開発を行う会社に就職する。そこで寺院が直面している課題を目の当たりにし、霊園事業に留まらない総合的な寺院サポート事業の必要性を感じて独立・起業する。2023年に社名をTERASUに変更。現在はテレビなどにも出演し、寺院の課題や未来について発信している。

株式会社TERASUは寺院とパートナーを組み、霊園や納骨堂の開発、葬儀事業、メディア発信事業などの幅広い事業を通して寺院が抱える課題を解決している。霊園事業では施設のプランニングから営業、販売までをトータルに支援。同社が手掛ける霊園は九州から中・四国、関西、関東まで全国に広がっている。いずれの事業においても既存の価値観にとらわれず時代のニーズにマッチしたサービスを展開し、次世代の寺院の価値を創出している。

日本人の幸福のために
お寺のあり方を問い直す

今、生活の中でお寺と関わる機会はどれぐらいあるだろうか。法要や葬儀だけ…、ほとんど関わることがないという人も多いかもしれない。かつてお寺は日本人の心の拠り所であり、時には教育や福祉なども担う場所であったが、現代の私たちには遠い存在になりつつある。もちろん時代が変わればお寺の役割も変化するだろうが、そんな現状を危惧しているのが株式会社TERASU代表の田中さんだ。
「日本は裕福であるにもかかわらず世界幸福度ランキングでは順位が低い。その原因は日本人の心の幸福が満たされていないからだと思います。これまで私たちの心の幸福をずっと支えてきたのがお寺であり、いま一度お寺にスポットを当てるべきではないかと考えています」。

同社のミッションを一言で表すと「お寺を守っていくこと」。霊園や納骨堂の開発から葬儀、お寺事業のコンサルティングまで、お寺を総合的にサポートしている。「お寺を守る」という言葉から、宗教的な教義に重きを置いて古き良きお寺を復活させるように捉える人もいるかもしれないが、同社の考えは違う。古来より地域の教育や文化の発信地であり、地域のサードプレイスでもあったお寺を時代の変化から問い直し、その未来形をお寺と一緒につくっていこうとしているのだ。

そうした考えは、霊園事業において樹木葬や永代供養など新しいお墓の形を積極的に提案していることからもうかがえる。「邪道だとお叱りを受けることもありますが、大手新聞のお墓に関する調査では樹木葬希望者は50%を占める一方で、墓石は20%という数字が出ています。墓を買っても跡継ぎがおらず、数十年後には墓じまいをせざるを得ない。私たちは今に求められるお墓を提供すべきだと考えています」。時代に目を向け、お寺も変わるべきだ。そんな田中さんの熱い思いに心を打たれ、樹木葬を取り入れるお寺が増えてきている。

縁がなかった世界で
人生のターニングポイントを迎える

お墓といえば、なぜ墓石が当たり前なのか。様々な理由があるが、そのひとつとして田中さんは意外なことを教えてくれた。「霊園の多くは古くから石材屋が担ってきました。石材屋にとって墓石を建ててもらわないと商いができないから、お墓は墓石であることが当然であり、他は邪道だと言うわけです。だから時代のニーズが変わっても墓石から離れることができないんです」。
石材屋として長い歴史を持つからこそ古いしがらみに固執してしまう。一方で田中さんの会社は2011年に創業した新参者。「歴史が浅いことは自分たちのメリットであり、だからこそ新しいお寺をつくっていけるんです」。

田中さんの人生を二十代前半まで巻き戻すと、お寺や仏教に何の縁もゆかりもなかった。社会人としてスタートを切る時に、高齢化が進みニーズが高まっていた介護業界に目が留まる。しかし、天邪鬼な田中さんは「みんなと同じことはしたくない」と思い、介護ではなくお墓参り代行サービスを立ち上げたのだ。その事業は失敗に終わるが、そこで人生を変える気づきを得る。
「霊園墓石業界には自動車や家電のような最大手の企業がいないことに驚きました。新規参入できる余地がたくさんある、ブルーオーシャンな業界だったんです」。起業家として野心を持っていたところに、自分にもつけ入るチャンスがある業界を見つけて心が高鳴った。

まずは業界について詳しく学ぼうと考え、霊園開発を手掛ける会社に就職する。独立志望であることを初めから公言し、3ヵ月だけ勤務する予定だったが、顧客との関係性が生まれたり、部下ができたりして勤務期間が延び、30歳を機に独立を決意する。
ところが、その大事なタイミングで田中さんは一度足を踏みとどめる。「勤めていた会社と同じように霊園を開発し販売するだけでもよかったんですが、お寺さんと深く関わっていくなかで、墓石を売るだけが自分のやるべきことではないと思いました」。田中はこの業界に深く関わるほど様々な疑問が浮かんでいた。その多くがお寺に関することだったのだ。

お寺がご遺族に寄り添い
故人をお見送りする葬儀を

「仏教に肩入れするわけではないんですが、仏教的なことは自然と人が求めていることを説いていると思ったんです。人生の苦しみにどう対処するのか。いわばメンタルヘルスに近いものを感じました。お寺さんで話を聞くと、心が安定した状態になる。現代人にとってお寺は必要であるのに、ますます現代人にとって縁遠い場所になっている。それはなぜかという疑問が大きくなりました」。
そこから田中さんは仏教やお寺について自ら勉強をするようになり、様々な観点からお寺について理解を深めるようになった。お寺が縁遠くなった理由は一概には言えないが、戦後GHQの占領政策によってお寺を中心とするムラ社会が解体され、地域において「お寺は守るべきもの」という感覚が薄れていったことが大きいと田中さんは話す。
「戦後社会においてお寺と地域の関係性がどんどん希薄になっていったのですが、お寺がもう一度必要とされる場所になってほしいと思いました。現代社会でも身近な存在として、現代人に寄り添うお寺が増えるといいなと。だからお寺さんを助ける事業をしようと決めました」。

同じ業界の中で田中さんのような発想を持った人はおそらくいない。田中さんが掲げた「お寺を守り、助ける」というビジョンを叶えるには、霊園を開発し販売するだけでは成し得ない。お寺と地域の繋がりを再び結び直すような取り組みが必要であり、業界内において田中さんは全く新しい動きを見せる。
そのひとつが、お寺の敷地に小型葬儀場を設置したことだ。お寺と連携し、近親者だけの小さい家族葬を行える空間と葬儀サービスを提供する。「葬儀の多くは葬儀会館で行われるのですが、お寺さんはそこに呼ばれるだけになります。そうではなく、お寺の中でより荘厳な葬儀を行い、そしてお寺さんがご遺族にもっと寄り添いながら故人をお見送りできるようにしたいと思い、このアイデアを思いつきました」。

固定観念を破る事業展開で
お寺とまちの繋がりを結び直す

この小型葬儀場は「葬儀を会館からお寺へ」というコンセプトばかりに目がいくが、事業の中身が綿密に考えられている。葬儀の小規模化が進み、儀式を行わない直葬が増えるなか、小型葬儀場は競合と異なるセグメントを狙う。直葬でもなく、10~20人規模の家族葬でもない、その中間にある未開拓ゾーンがターゲットだ。また、コンテナ・トレーラーハウスを改装することでコストを削減し、それによって低価格での葬儀サービスを可能にした。トレーラーハウスなので移動ができ、もし近隣からセレモニー場設置への反対があってもリスクヘッジができる。
実際に見学させてもらうと、コンテナ・トレーラーハウスだとは思えない。デザイナーにフルオーダーしたという意匠は細部までこだわりがあり、ホテルのような落ち着いた空間がある。「プライベートな空間でゆっくりと故人様とのお別れの時間を過ごしていただきたいと思っています」と田中さん。さらに「この業界の仕事で大事なことはご遺族のつらさを誠心誠意受けとめることです。それによってご遺族から『本当にありがとう』『心が落ち着いた』と感謝いただけます。その感謝は自動車や家電を売ってもらえる感謝よりもきっと強い思いが込められているはずです。だからこそより良い空間を実現したかった」と続けて話す。

霊園や納骨堂の開発だけでなく、お寺と連携した小型葬儀サービスを展開することで、お寺と地域の接点は増えていくに違いない。しかし、これは小さな一歩に過ぎないという。「たとえばお寺さんと一緒にイベントを開いたり、レストラン事業や宿泊事業を行ったり、これからもっと多くの事業をお寺さんと取り組んでいきたいと考えています」。田中さんが目指すのは、お寺と地域の関係性を結び直し、法要や葬儀、霊園だけでなく、お寺を現在版のサードプレイスとして地域に根づかせることだ。
そのためのアイデアがたくさんあり、既存にない事業を次々と打ち出していく構えだ。ただ、古いしがらみが根強い業界で易々とはいかないのではないかと尋ねると、
「何度も邪道と言われ続けましたが、出る杭が打たれる時期は過ぎたと思っています。私たちの事業に好感をもってくれるお客様は増えています。新しいお寺さんのあり方を時代が求めている実感があります。その流れをお寺さんと一緒に大きくしていきたいです」
そう力強く語ってくれた。

COMPANY

株式会社 TERASU

本社:東京都港区芝浦4-20-2 芝浦アイランドブルームタワー2901
URL:https://terasu-gr.com/

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