interview

賢く消費できる知恵とともに
暮らしのなかの「紙」を届ける

株式会社 ユアサ 専務取締役 兼 事業管理本部長 湯浅 賢治さん

大学卒業後、NECでシステムの営業・販売に13年間携わる。その後アパレルメーカーを経て株式会社ユアサに入社。新たな事業戦略や営業戦略においてリーダーシップを発揮している。また、オリジナル商品の開発にも取り組み、各ブランドの紙おむつを少量ずつパッケージ化したお試し用セットは人気商品となっている。

トイレットペーパーやキッチンペーパー、ティッシュペーパーなどの家庭紙と呼ばれる紙製品を専門に扱う卸会社。売上の約6割はトイレットペーパーが占める。メーカーとの強固な結びつきや関西圏に広がる搬送網を強みに、生協をはじめとする関西の大手小売店から厚い信頼を得ている。現在は中小企業への直販にも力を入れ、順調に取引先を伸ばしている。

消費者があまり知らない
トイレットペーパー購入の知恵

自宅や会社ではどんなトイレットペーパーを使用しているだろうか。特売で買ったもの?いつも使っているブランド品?そう問われると、特に理由もなくトイレットペーパーを選んでいる人が多いのではないだろうか。あるいは「とにかく安いものがいい」と価格で選んでいる人もたくさんいるはずだ。しかし、安いものを選んだつもりが実は損をしていることもある、と話すのが湯浅賢治さんだ。

「トイレットペーパーはどれも同じような見た目ですが、1ロールあたりの長さが商品によって異なります。市販でよく見かけるものは50mぐらいですが、長いものは250m。5倍も違うわけです」。お買い得商品として店頭などで山積みにされているトイレットペーパーは短尺なものが多い。安く購入できたと喜んでいても消費ペースが早いため、少し高額な長尺商品を1本買うより、コストパフォーマンスが悪いこともあるというのだ。「消費者がトイレットペーパーを選ぶときのポイントは主に3つ。ブランド品であるか、価格が安いか、小売店のオススメ品や特売品であるか、このいずれかで選んでいます。長さで選んでいる人は少ない。そもそも長さが異なることを知らない人も多いんです」。湯浅さんの話を聞くと、賢い買い物ができそうになってくる。同社には卸業者として家庭紙の製造から流通、販売までの裏側に精通し、蓄えてきた知識がある。それを消費者の目線でわかりやすく伝えることが、いま湯浅さんが力を入れている仕事のひとつだ。

なかでも湯浅さんがいちばん知識を伝えたいと目線を送るのが中小企業だ。家庭よりもトイレットペーパーへの関心が薄く、選ぶポイントは価格のみ。安いものを通販サイトや近隣スーパーで購入していることがほとんどだと話す。「現在使っているトイレットペーパーが本当にお得なのか、どんなトイレットペーパーがその企業にとってコストパフォーマンスが高いのか。紙のコンサルというと大げさですが、商品だけでなく“知恵”を提供しています」。

自社の強みから描く
BtoBでの戦略ストーリー

紙業界全体が右肩下がりであるなか、家庭紙は市場規模を維持している。ところが湯浅さんは「このままでは未来がない」と危機感を募らせ、それが中小企業に着眼するきっかけになったと話す。

同社の取引先は関西ローカルのスーパーやドラッグストアだ。近年は全国規模の大手チェーン店が関西に進出して競争が激化しており、事業拡大は難しい状況にあったのだ。

「私たちは関西にきめ細やかな搬送網を持ち、それを評価していただいています。自社の強みをきちんと保ちながら、新しい事業を開拓していく必要があると思いました」。

湯浅さんが出した答えが“中小企業への直販”だった。関西中に張り巡らされている搬送網を生かすことで様々なエリアの企業に納品ができる。しかも小売店を回る経路に企業への搬送を組み入れ、効率的なロジスティクスを構築すれば1件あたりの搬送コストを減らすこともできる。「中小企業への直販には、配送密度を上げて配送単価を下げる狙いもあります。同業者は大きな商業施設や総合病院には群がります。一箇所で一発どかんと大きな利益を得たいわけです。一方で中小企業には見向きもしない。一度の取引量が少なくて効率が悪いからです。でも、当社には小さく散らばったニーズを効率良く拾える搬送網があります」。自社の強みを活かしつつ、中小企業が安く商品を購入できる、オリジナルの戦略ストーリーだった。

しかし本当にニーズがあるのだろうか。湯浅さんは市場調査を兼ねて企業を一社一社訪ねて営業することにした。「突然トイレットペーパーを売りに来るわけですから、怪しいにきまっていますよね。でも、真面目に話を聞いてもらえれば勝率がよかったんです」。手ごたえはある。あとは、いかに怪しまれず企業に振り向いてもらうかだ…

商品の宣伝ではなく、
会社の姿勢を見せる営業

湯浅さんは、営業のときに手作りの冊子を配るという。実際に見せてもらうと、同社の宣伝はひとつも掲載されていない。トイレットペーパーやキッチンペーパーなどにはどんな商品があるのか。どの商品を選ぶとコスト削減につながるのか。長尺のトイレットペーパーなら保管スペースをどれぐらい縮小できるのか。企業にとって有益な情報が丁寧に書かれていた。「あえて商業性を無くしているのですか」という質問にうなずく湯浅さん。商品を売るよりも、まずはお客様の立場に立って正しい知識を提供していきたいという姿勢が、この冊子から感じられる。「トイレットペーパーに関わる知識を提供し、後はお客様が選びたいものを選べるようにしたい。そういう会社の姿勢をきちんと示したいと思いました」。

“売るよりも、まず知恵を“という想いを込めた戦術は、企業との距離を縮めることに成功した。訪問営業で断られるケースが減り、取引先が増えっていったのだ。保育園から工場、飲食店まで業種は多岐にわたり、約2年でその数は約1000社にもなった。

「卸を専門としているのでメーカーからいい条件で商品を仕入れることができ、市販の価格より15%~30%お安く提供できます。なので、正しい知識をつけてトイレットペーパーに関心を持っていただければ、高確率で当社を選んでいただけます」。知恵を届けるコンサル的な営業活動が上手くいけば、受注に結びつくという自信があったのだ。

実は、湯浅さんがコンサル的な面に力を入れる理由は他にもある。湯浅さんはNECでキャリアをスタートさせ、システムの営業・販売に携わった。その後、アパレルメーカーの株式会社マザーハウスに入社。途上国から世界に通用するアパレルブランドをつくることを理念に掲げ、ソーシャルビジネスを展開する同社で、ジュエリー事業の販売責任者を務めた。「これまでシステムやジュエリーをやりたかったのではなく、自分がやりたい営業や販売に携われることが重要でした。お客様自身が納得して購入できることが喜びにつながる、という信念をずっと持ち続けています」。お客様の喜びを最大値にするためには出来ることを惜しまない。有益な知識や情報があれば提供していく。単なるモノ売りにはなりたくないという湯浅さんの想いもあったのだ。

「お客様に喜びを」
ユアサが大切にしてきたものを受け継ぐ

新事業では同業者が立ち入らない優位性を築いているが、強力なライバルがいる。それがアスクルなどの大手通販サイトだ。しかし湯浅さんはすでに大手通販サイトとの差別化も描き、準備を進めている。

「大手通販サイトの強さは少量の商品を迅速に提供できることだと思います。一方で、当社が狙うのは『箱買いをしたい』というようなニーズです。メーカーから大量仕入れができるので、一度に安く多く買いたいという企業の希望に応えることができます。ただし利便性では大手通販サイトに劣っています。未だにFAXで注文を受けているようなアナログなんです。そこでECサイトを立ち上げ、お客様がもっと利用しやすい仕組みをつくろうと取り組んでいます」。

ECサイトの中身は大手通販サイトと一線を画す予定だ。ひとつは箱買いなどの大量購入がしやすいサイトにすることだが、もうひとつが商品選びに役立つコンテンツを充実させることだ。単に商品が羅列するサイトにはしたくない、ECサイトでもお客様に“知恵”を提供したいという湯浅さんの想いがつまったサイトになるという。

ECサイトの屋号は「湯浅紙店」。創業当時の屋号が採用された。株式会社ユアサは大正14年に湯浅さんの曾祖父が障子紙を販売したことから始まる。紙がまだ高級品だった時代に一般家庭にも紙を普及させるために尽力したという。その後、同社はお客に喜ばれるものを届けたいという想いを事業に込め、時代の変化や消費者のニーズを先取りした紙製品を届け続けてきた。約100年にわたりユアサが大切にしてきた想いはこれからも途絶えない。

「結婚し子どもができて残りの人生について考えるようになったとき、家族や親への感謝を表現できる仕事をしたいと思うようになりました。また、お客様にダイレクトに喜びを与えられる仕事を続けていきたいとも思っています。それが出来る場所として、家業に戻ってきました」。バトンを受け継ぐことを決めた湯浅さんが、今後は令和の時代に求められる形でお客様に喜びを提供していく。

COMPANY

株式会社ユアサ

〒662-0973 兵庫県西宮市田中町4-10-2
TEL:0798-33-4511
URL:http://www.e-yuasa.co.jp/

ECサイト「湯浅紙店」
https://yuasakamiten.com/

当社支援内容
ものづくり補助金
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