interview

食べておいしい、地球にやさしい。
新時代のクッキーはこうでなくちゃ

株式会社 ovgo 代表取締役 髙木里沙さん

小学校5年から高校卒業までアメリカで暮らし、大学在学中には2年間フランスに留学するなど青春時代の大半を海外で過ごす。理系出身で、元々は物理を学んでいたが、経営に興味を持ち、大学院では金融工学を専攻。メリルリンチ日本証券(現・BofA証券)の投資銀行部門に5年間勤務後、ovgoの創業に参加した。

こだわりの自然素材で作った植物由来のクッキーは、身体に優しいのに食べ応えもじゅうぶん。作り手が楽しくて何度も食べたくなる味をめざして毎シーズン新しい味を開発している。桜もちクッキーなども期間限定で販売中だ。

お菓子にも、
多様性という選択肢を

20216月、東京日本橋のオフィス街の一角に、まるでニューヨークを思わせる焼き菓子店がオープンした。店の名前は「ovgo-Baker(オブゴベイカー)」。アメリカンなのは外観だけではない。扱う商品は“Organic Vegan Gluten free as Options”を掲げたアメリカン焼き菓子だ。ブランド名の「ovgo」はこのスローガンの頭文字をとった造語であり、植物性材料のみを使用して製造した焼き菓子、主にヴィーガン対応のクッキーを扱う。2020ECでのクッキー販売から始まり、2021年の日本橋の路面店開店を皮切りに、現在では京都を含めた系列5店舗を運営するまでに事業を拡大した。

客層は店舗の立地によって様々で、仕事の合間の一服として買いに来るビジネスパーソンや、インスタ映えの写真を楽しみたい若い女性、手土産として詰め合わせを買っていく主婦層、観光や出張で日本を訪れた外国人など多岐にわたる。日本人には新鮮で、外国人には親しみやすく、またどんな人でも食べられる「アメリカンなヴィーガン対応のクッキー」が東京の街に受け入れられるまでに、時間はかからなかった。だが、ovgoはプラントベースや環境負荷の軽減を大々的に打ち出している企業ではない。そこには創業者たちの「ゆるさを持った取り組み」という理念があるからだ。

「卵やバター、牛乳を使えば、当たり前においしいお菓子ができるんです。でも、肉食や畜産業は広大な土地の利用や水資源の消費、森林破壊といった気候変動、環境問題の大きな原因です。そういう事実を知っていながら、これまでと同じように動物性由来の原料を使うスタイルでスタートアップを始めるのは、かっこよくないですよね」。
創業に携わった髙木さんは小学校5年生から高校卒業までを海外で過ごしており、他の創業メンバーもまた、海外旅行などで欧米諸国の環境への意識の高さに影響を受けたことからovgoのアイデアはスタートした。ただ、髙木さんたちは、日本でもここ数年でヴィーガン対応の店が増えてきたものの、プラントベースの食品や製品が環境保全に結び付くという考え方はまだ浸透していないことを強く意識していた。プラントベースでも十分美味しいものを作れるということを知ってほしい受け入れてもらいたいが、それが啓蒙や押し付けのようになってほしくないというのが創業メンバーの共通の思いだった。

おいしいクッキーで、
日本をヘルシーに

「欧米の人々が暮らしの中で当たり前に持っている環境への意識が、もっと日本にも普及してほしいなあと思います」。ただ、消費者に強制するのではなく、多様性を尊重し「オプション(選択肢)」として楽しみながら環境への負荷を減らしていけるようにしていきたい。それが髙木さんたちの見つけたovgoの理想であり、「ゆるさ」を掲げる理由だ。
「おいしいから食べていたクッキーが、実は環境にも、健康や身体にも優しくてそうやって食べ続けたいと思ってもらうことが、日本におけるSDGsの取り組みの正解じゃないかと思うんです」。

そんな髙木さんたちの考え方が共感され、国内での認知度が徐々に向上し、ovgoの焼き菓子を取り扱う店舗は順調に増えている。以前は自分たちで一軒一軒まわって営業活動をしていたが、今では店舗の方から「置かせてほしい」と依頼が来るまでになった。現在はマフィンやバナナブレッドなども展開するが、日持ちがよく、配送が簡単なクッキーはECから参入したovgoにとってはもっとも相性のいい商材だった。現在、定番商品として通年扱う30種類のクッキーに加え、季節やネット限定など過去に販売したフレーバーを合わせるとその数は200以上にものぼる。一番人気はいかにもアメリカらしいチョコチップのクッキーで、抹茶などの和風フレーバーも人気がある。現在、海外進出を目標に据える経営陣たちにとって「日本」という付加価値を持ったフレーバーは今後さらに強化していきたい商材のひとつだ。「豆腐って海外では代用肉としてかなりの地位を築いているんです。大豆製品は日本のお家芸だったはずなのに、もう今から参入するのでは遅いくらい、欧米諸国にビジネスとして先を越されてしまった。ovgoはアメリカンテイストですが、日本らしさも同時に大切にしていきたいと思っています」。

ovgoはヴィーガン対応であるという話題性も大きいが、ただそれだけで成長してきたわけではない。髙木さんからの話からはコンセプト設計や販売戦略、商品企画など様々な面からovgoのクレバーな点が見て取れる。その一つひとつに経営陣のバックグラウンドが活かされているのだが、戦略や計画を実行してきた彼女たちのパワーにも圧倒される。それは「ゆるさ」とは真逆といえるかもしれない。

アパートの一室から
膨らんでいった創業エネルギー

ovgoのフレッシュなエネルギーは、まさしく経営陣のバイタリティーから生まれている。この新進気鋭の菓子ブランドは、商社や外資金融、海外ブランドなどでキャリア経験を積んだ友人たちが集まって小さなアパートの一角からスタートした。髙木さんが経営陣のメンバーに加わったのは、株式会社化する20213月のことだ。
2019年の夏ごろから休日や仕事終わりの隙間時間にクッキーを焼いて、ファーマーズマーケットに出店していたのがovgoの前身です。2020年のコロナ禍でおうち時間が増えて、ECで売り上げを伸ばしたことから合同会社を設立し、資金調達などのファイナンシャル面のサポートとして外資系金融に勤めていた私に声がかかりました」。

髙木さんは新卒で外資系証券会社に入社し、投資銀行部門アソシエイトとして忙しい日々を過ごしていた。帰国子女として語学力も堪能だった彼女は、入社数年の若手ながら各界を動かす経営者たちと渡り合う存在だった。その中で事業戦略やファイナンスの経験を重ね、いつかは自分も経営に携わりたいと感じていたので、ovgoの立ち上げというチャンスを逃さなかったという。「アメリカなどの多民族国家ではヴィーガンやハラルなどの食の選択肢が当たり前にあるんですよね。それにプラントベースにすることで畜産業の生産量を減らすことができれば環境負荷の軽減にもつながり、おいしいクッキーが実は環境問題の改善にも一役買っている、というovgoの理念に共感しました」。

それまで一日中パソコンとにらめっこだった業務内容が、ひたすらクッキーを焼くという仕事に180度変わった。「カルチャーショックを感じたのはいまでも鮮明に覚えています。でも、目標があって、仲間たちと進んでいる実感が得られるのがとても楽しかったんですよね」。友人4人で始めたスタートアップ企業は、それぞれが前職で培った経験を活かし、時には前職とのギャップに苦しみながらもチャレンジを続けることで、株式会社化1年後の20223月には70名の従業員を抱えるまでに成長した。

日本生まれのアメリカンクッキーが本場で勝負に出る

創設当時からアメリカ進出を目標のひとつに掲げていたovgoが、ついに2023年に現地のニューヨークでのポップアップを行った。髙木さんたちを驚かせたのは、現地の人々からの「クッキーが小さい」という意外な指摘だった。「160グラムなので、日本ではじゅうぶん満足感が得られるサイズだと言われていました。でも確かに、現地で他店に並んでいるのを見ると小さいのかもしれないと思って、急きょアメリカサイズの100グラムに増量しました」。抹茶や柚子のフレーバーが人気だったことも意外な発見のひとつだった。これらはすでに健康食として高い人気と知名度を獲得しており、現地の顧客はovgoに日本の味を求めているというのがわかったのだ。

「私が昔住んでいたころのアメリカとは、日本に対する解像度がまったく違っているなと改めて実感しました。それを追い風にして、アメリカの方にもグッとくるようなものを作っていきたいと思います。この解釈を間違えるとダサくなっちゃうので、ovgoのセンスの見せ所と思っています」。
髙木さんのこの自信の裏打ちになったのは、ovgoの絶対的な「おいしさ」をアメリカで再確認したことだった。市場調査のために現地でヴィーガンクッキーを大量に買い、食べてみた結果どれも今ひとつだと感じた。
「これなら勝負できると思いました」。
プラントベースの食品が普及しているアメリカでも、専門店というのは少ない。数あるメニューの中のひとつの立ち位置になっていて、ovgoのようにヴィーガンに特化した菓子店は逆に珍しいということもわかった。テストマーケティングとして挑戦したアメリカ出店だったが、上々の成果を得ることができたと言っていいだろう。

アメリカでのテストマーケティングを済ませたovgoが目を向けるのは、アメリカだけではなく世界だ。「“プラントベースのベイクブランド代表と言えばovgo”と皆さまに言っていただけるように、そしていつかオブゴるという動詞がサステナブルな食の選択をするような意味になるっていうのが密かな目標なんです」。ovgoはまだまだスタートを切ったばかり。髙木さんたちのエネルギーはこれまで以上に漲ってきている。おしゃれなパッケージの裏に隠された、若き経営者たちの野望がいつか環境問題の解決につながり、世界を救うのかもしれない。

COMPANY

株式会社ovgo
URL:https://ovgobaker.com/

ovgo Baker Edo St..
〒103-0001 東京都中央区日本橋小伝馬町10−8

ovgo Baker Meiji St.
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1丁目11−6

ovgo Baker Nijo St.
〒604-0963 京都府京都市中京区布袋屋町508

ovgo Baker BBB
〒105-0001 東京都港区虎ノ門2丁目6−2 ヒルズステーションタワ B2F T-MARKET

ovgo Baker cookie Factory Shop
〒101-0065 東京都千代田区西神田2丁目5−2 Tasビル 1F

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