「難しい」を「簡単」に。
業界の課題を解決する木工機械

YASAKA 株式会社

代表取締役社長 梁崎 由喜夫さん

物流業界の営業管理職を経験した後、同社に入社。工場、海外営業、開発、調達業務などを担当し、取締役部長と工場長を兼任後、代表取締役社長に就任。当時、姉歯事件による業界全体の萎縮によって危機的状況に陥っていた経営を立て直す。2024年社名をYASAKAに変更。

1970年設立。ドアやキャビネットなど主に住宅に関わる木工機械の開発・製造・販売を行う。「高度な生産や仕組みをより簡単にする」を開発の主な理念とし、エンドユーザーの声を細やかに拾い上げながら、現場の課題を解決する木工機械を生み出している。近年はさらなる開発業務の発展に注力しており、専用ラボの建設・導入を計画中。

Section 1

現在、製造業における加工はコンピュータによって制御されることが「当たり前」だ。しかし、「当たり前」には必ず先駆者による挑戦が存在し、ゼロをイチにする困難を乗り越えて人々に受け入れられたからこそ、今日の「当たり前」がある。YASAKAは、NCボーリング機(木工機械)へPCによる制御システムを国内でいち早く組み込んだパイオニアだ。

今から約40年前、PCで制御できるNCボーリング機はまだ普及しておらず、加工を行うには複雑な計算を行った上で制御装置へ数値を入力する必要があった。そのためには専用のオペレーターも欠かせなかった。また、PCのように操作が統一されていないため、制御装置によって異なる方法を修得しなければならず、導入には2週間程度の研修を要していた。運用面でもオペレーターの育成や人件費などのさまざまなコストが嵩んでいた。YASAKAはそのような状況からの脱却に挑戦して「電卓のように制御できる木工機械」をテーマに開発を行い、多くの顧客に受け入れられた。
その当時の状況を、代表取締役の梁崎由喜夫さんはこう伝え聞いている。
「特に苦労したのはユーザーインターフェースと制御ソフトの開発だったそうです。何せ“電卓のように制御できること”がテーマでしたから、熟練のスタッフ以外も直感的に操作できる必要がありました。実際に木材加工を行う現場の皆さんと、こうしたらもっと分かりやすい、いや、それでは細かい調整ができないなど、さまざまな問題提起と意見交換を行いながら開発が行われました」。

PCによる制御をNCボーリング機に組み込むのは当時の業界内では先例がなく、YASAKAにとっては制御装置メーカーのような知識・ノウハウの蓄積もなかった。だからエンドユーザーのもとに入り込み、現場の声をくみ上げるしかなかったのだが、それがYASAKAの木工機械が受け入れられる道を切り拓いた。エンドユーザーのもとへ足を運び、現場の課題や困難を丁寧に拾い上げ、解決につながるアイデアを模索し、カタチにする。メンテナンスのしやすさも欠かせない。「現場の声の反映」と「扱いやすさ」は、現在もYASAKAの開発業務における根幹となっている。

Section 2

「木工機械は他の製造機械と違い、木材特有の難しさがある」と話す梁崎さん。YASAKAは「扱いやすさ」とともに「木材の特質」にも向き合ってきた。
木材は、保有する水分量などによって反り・曲がりといった変化が発生する「生きた素材」だ。特に日本は湿度が高く、その影響が顕著となる。YASAKAはそうした木材の特質を研究し、加工機械を発展させてきた。しかし、近年の世界的な物価高にともない、加工業者はコスト面から変化の著しい低品質な木材を取り扱わなければならないのが現状だ。低品質の木材には、これまで以上に緻密な矯正・加工技術を有する木工機械が必要になる。
一方で、少子高齢化による加工業者の担い手不足や生産性向上の観点から、「省人化」も重要なテーマになってきている。木材は変化の生じる素材であるため、機械化においても人の判断と調整が欠かせない。「手仕事」と「自動」両方のバランスを見極めながら、なるべく人の手がかからない加工環境を構築することが木工業界の大きな課題にもなっている。
木工業界が岐路に立つ中、YASAKAがめざすのは木工機械の新たな「当たり前」だ。「更なる正確な矯正・加工」「手動・自動のバランスを保った省人化」といった2つのテーマに対応すべく、開発部門にいっそう注力し、専用ラボの建設・導入を計画している。

「現在は工場内で開発業務と検査業務を並行して行っているのですが、どうしても非効率な進行となってしまっています。専用のラボに開発・検査業務とスタッフを集約することで、絶えず開発と検査を積極的に動かせる環境をつくろうとしています。また、社外展示会だけでなく、社内にショールームを構えて加工機械の即売を行う展示も自主開催しており、展示でいただいた幅広いご意見や、購入いただいたお客さまからのフィードバックをタイムリーに開発へと活かしています。多角的な取り組みを同時進行的に行い、業界の課題を解決する木工機械へと繋げていきたいと考えています」。

Section 3

梁崎さんが同社に入社したのは、30歳のころだった。物流業界で営業を行っていたが、メーカーへの憧れから転職を決意した。
「とにかくメーカーのように『価格決定権』を持ちながら仕事がしたかったんです。物流は製造から販売までの過程でいうと最後のほうなので、メーカーからは余ったコストでしか仕事をもらえないわけです。それが嫌で、もっと自分でものごとを動かしたいと強く思っていました」。
同時に梁崎さんには地場産業に貢献したいという思いもあったので、転職相談では地場企業に絞って候補のリストアップをお願いした。すると5社候補があがったのだが、メーカーはYASAKA(当時は弥栄鉄工)のみ。待遇を見れば、他の4社のほうが良かった。
「前職では管理職に就いていましたが、当社では一般社員に戻り、給料も下がってしまいます。それでも価格決定権を持つ立場になりたいと思い入社しました」。
新たに踏み入った場所は、これまでのキャリアが通用しない世界。電話番からのスタートだったが「自分で決定権をもってものごとを動かしていく」という熱意を忘れずに、工場から海外営業、開発、調達業務へと、ほぼ全ての部門を経験し、ひたむきに仕事に打ち込んだ。そして、取締役部長と工場長を兼任後、ついに代表取締役社長へと就任し「決定権を持つ立場になる」ことを叶えた。しかし、夢の実現と同時に、危機に立ち向かわなければならなかった。

2005年に発覚した姉歯事件による業界の混乱が、住宅に関わる木工機械の開発・製造・販売を行う当社にも及びました。業界全体が縮小し、当社の受注もほぼゼロに。かなり危うい状況でバトンを渡される形となりましたが、2回目の創業だと思い全力で社内の改革に努めました」。ここで経営の決定権が揺らぐと、会社はどうなるかわからない。ましてや自分がめざしてきた立場が水泡に帰すことは避けたい。梁崎さんは創業オーナーに対して、金融機関との個人補償はすべて自分に置き換え、株主ふくめ経営にかかわる文句は言わせない約束をとりつけた。社内業務の意思決定すべてに梁崎さんが関わる体制へと転換。断腸の思いで人員整理も行い、精鋭集団へと社内を変えていった。2期目は赤字を出してしまったが3期目から回復し、危機を乗り越えた。

Section 4

梁崎さんが現在特に力を入れているのが、「次のYASAKA」の構築だ。
YASAKAの強みは「現場の声の反映力」だけではない。複数の協力工場と連携し生産を行うアッセンブリーメーカーである点も大きな特徴のひとつと言える。
「機械部品を協力工場に製造してもらい、YASAKAで組み立てる形式をとっています。自社内で製造を行うと身内同士で忖度などが発生してしまいがちです。そのような状況だとせっかく現場で拾い上げた声も、反映が難しくなります。協力工場との連携で“作らせる力”を強化し、妥協なく現場の声を機械に反映できる体制を構築しています」。
梁崎さんはこの体制を強化し続け、そこにある問題や課題を放置せず、アッセンブリーメーカーとしての進化に挑んでいる。たとえば「在庫」に対する意識改革もそうだ。
「開発において失敗はつきものです。ただ、自分たちのミスを直視したくないからか、失敗したものを新品だからと平気で資産計上を行い、そのまま財産として持ち続けてしまうことが業界の悪しき慣習でした。しかし、それでは物理的に倉庫を圧迫してしまいますし、失敗をごまかし続けるような悪循環に陥ります。抱えていた失敗作は適切に廃棄し、生きた在庫のみを保管するようにしています」。

「次のYASAKA」の構築に向け、梁崎さんの毎日はますます多忙を極めている。
「社長の考えを実現するために、日頃とは違う業務を行わなければならない。そんな状況を社員に与えたくないんです。私の負担が増えたとしても、社員一人ひとりが目の前の業務に全力で取り組める環境をつくりたいと考えています」。決定権を持つ自分がもっともパワフルに動かなければならないと考える梁崎さんには、そんな社員に対する思いもある。

20241月、同社は社名を「弥栄鉄工」から「YASAKA」へと変更した。
新たな人材確保や開発業務の発展などに向けたリブランディングの一環として行われたものだ。また、社内を見学すると、梁崎さんがこだわったというブランドカラーである赤を配したインテリアや内装に目がいく。細部にわたり「次のYASAKA」への強い意志が表れている。
「さまざまな改革を行っていますが、当社のテーマは今も、初代代表である弥栄が行った『電卓のように制御できる木工機械』の開発とその挑戦に詰まっています。それは『高度な生産や仕組みをより簡単にする』ということ。いま木工業界は様々な難しい課題を抱えていますが、当社は昔から“難しい”を“簡単”へと変えてきた企業です。弥栄の名を『YASAKA』として残すことでその意思をこれからも受け継ぎ、木工業界の発展に努めていきます」。

YASAKA株式会社

〒435-0026 静岡県浜松市中央区金折町147
TEL:053-426-1216
URL:https://www.yasaka-co.jp/

当社支援内容
事業再構築補助金
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