interview

ファッションでも、経営でも
揺るがない強さを纏う。

株式会社 エーステック 代表取締役 加納 理子さん

幼い頃から服に興味を持ち、当時から好きだったファッションを自分のスタイルとして貫いてきた。一度手に入れた服は大切にし、手放すことが少ないため、そのコレクションは数えきれないほどになるという。2021年に、約20年続けてきたアパレル販売員からエレベーター会社の経営者へと転身した。

エーステックが得意とするのは、大手メーカーができないようなエレベーター設置。規格品が多い大手メーカーは設置場所を選ぶが、エーステックは設置場所に合わせて設計や製造を行い、お客様だけのエレベーターを提供できる。さらにメンテンスや改修なども手掛け、長期の安心・安全を届けることを最重要視している。

社長であっても
自分のファッションを

少女のような可憐さのなかに潜む、退廃的で、ミステリアスな影。
毎日、加納さんは自分の好きなファッションに身を包み、会社に出向く。顧客と会うときも変わらない。工場や施工現場で作業服を着る以外は、いつも同じスタイルだ。幼い頃ころから自分を表現するアイデンティティ。これまでどんなトレンドにも流されなかった。そして代表取締役に就いてからも——

エレベーターの製造や設置・メンテナンスを手がける株式会社エーステック。加納さんは2021年、父から社長を継いだ。「スーツを着るべきなんでしょうが、慣れないことをするものではない」と、常識に囚われずに自分の信念を優先した。
新規顧客の中には目をぎょっとする人も多い。でも慣れてくれば個性として好意的に受け入れてもらえると加納さんは楽しそうに話す。

事業継承の誘いは突然だった。アパレル一筋、定年までやり遂げる覚悟をしていた矢先に父から「継いでほしい」と懇願された。
「正直ずっと身を置いてきたアパレルの世界を離れたくなかったのですが、父にカチンと来たんで、やってやろうと決めました」。
実は加納さんが真っ先に候補にあがったわけではなかった。父は当初、事業継承を別の親族に持ちかけ断られていたのだ。「自分が二番目」という悔しさが加納さんを動かした。もちろん父が築き上げてきたものを守っていきたいという想いも強かった。

シビアな世界で見つけた
成長のための思考

「加納ちゃんが着ると、全然違う服に見えるね」。
アパレル販売員であった加納さんは、お店のアイドル的存在だった。全国の百貨店に店舗を展開するシニア向けハイブランド。抜群の着こなしだけでなく、加納さんのトークセンスが顧客の心を惹きつけた。 

「お客様の年齢層は50代から90代まで。流行を追わずにお客様と長くお付き合いしていくことを大切にするブランドでした。中には2030年ものお付き合いになる方もおられます。お孫さんが生まれ、入学され、結婚されたり、大切なご主人に先立たれたり、色んな話をしながら人生の楽しさや悲しさを共有いただきました。服を売るというより、お客様の人生に寄り添うような仕事だったと思います」。

歌舞伎から落語、浪曲、バレエ鑑賞、F1や相撲観戦まで、趣味が広い加納さんは会話の話題には困らなかった。さらに料理や旅行、クラシックホテルなど、顧客が提供する話題も積極的に楽しんだ。そんな姿勢の加納さんはいつの間にか店舗を発展させる存在になっていた。売上が振るわない店舗を再生し、次の店舗でも売上を回復させる、ショップ再生の請負人のようだったという。

「アパレルの世界はシビアです。月ごとに売上の変動をきちんと周知し、良くなければ早めに行動を起こし改善しなければなりません。短いスパンで考え続けることが欠かせません」。

加納さんには、ショップ店長での長い経験を経て、マネジメントに対する揺るぎない考えがあった。それを自分のファッションスタイルとともに、社長就任の所信表明としてエーステックの従業員に指し示した。

どや顔になっていい。
エレベーター事業に誇りを

失敗を前提に挑戦し、改善していく。そのサイクルをすばやく回していこう。
加納さんはエーステックに新たな考えを持ち込んだ。しかし、周りの反応は想像と違った。明らかに怪訝な顔をする従業員。拒否反応を示すものが次から次とへと辞めていった。

「就任当時は、すごくしんどかったです。でも、まず人が変わらないと、会社は変わらないという確信がアパレル時代からありました。今は売上が安定しているが、旧態依然ではいずれ右肩下がりになる。一部の従業員から嫌われることもありますが、粘り強く人事改革を行う、それが1年目の私のやるべきことだと心を決めました」。 

3年ください——それで経営者としてものにならなければ引導を渡してほしいと加納さんは従業員に伝えていた。就任前には分からなかったが、日ごとに父と従業員がつくり上げた事業の良さが見えてくる。エーステックほど顧客の細やかなニーズに対応できる会社は少ない。飲食店の配膳エレベーターからホームエレベーター、港湾荷揚げ用の大型エレベーターまで、上下に動くものであれば何で対応し、企画・製造から設置、メンテナンスまで一貫して行う。大手メーカーが手を拒める場所にも、持ち前の発想力と技術で顧客の願いを叶えてしまう。

「エレベーターは生活になくてはならないし、暮らしを豊かにしてくれます。先日、あるお客様のご依頼で足が悪くなった奥様のためにホームエレベーターを設置させていただいたのですが、その奥様が本当に喜んでくださり、ご自宅に招いて感謝を伝えてくださいました。とても誇りある仕事です。みんなにはどや顔で働いてほしいし、もっと多くの人の役に立てる会社にしたい」。自分の経営者としての適性云々よりも、魅力ある事業をもっと発展させたい。その想いが加納さんを突き動かしている。

転んだ数が多いほど
目標に近づいていける

就任2年目の今、「人がうまく回りはじめている」と感じる加納さん。失敗を恐れず挑戦していこうという考えが従業員に浸透し、新生エーステックが始動しつつある。次は、そのマインドをもとに、いかに実務で連携していくか。個人の能力が高いからこそ協働・共創がうまくいけば大きな成果を生むにちがいない。加納さんはまず社員間のコミュニケーションの形を変えようと、社内連絡ツールにLINEを導入した。DXの考えも取り入れ、連携を生み出す環境・仕組みづくりに着手している。 

「経営者としてよちよち歩きの私には、正解をかぎ分ける力なんてありません。それなら早く転んでしまったほうがいい。転んで強くなっていく。今のうちに膝が血まみれになるぐらい何度も転んでおいて、将来はどっしりと歩いていけるようにしたいです」。 

足元に転がっている無数の小石に躓いても動揺しない。加納さんの目は行く道の先をしっかりと見据えている。 

「地元の方にとって『エレベーターならエーステック』と真っ先にあげてもらえる、地域で信頼No.1のエレベーター会社をめざしていきたいです。新規参入が増えて競争が激しくなっている今、お客様からの信頼こそが何より重要だと考えています。そのためにはサービスの質を高めることが第一。施工はもちろん接客から事前説明、アフターフォローまで、すべてにおいてお客様に寄り添っていく。アパレルで培った経験も活かし、エレベーター業界に新しい風を起こしたいですね」。
本社近くの河川敷にある天井川公園が大好きな加納さんは、地元に根差す企業としてその景観を守っていきたいとも考えている。自社を地域から俯瞰したり、顧客や従業員の目線から眺めたり、さまざまな階層を移動しながら物事を見つめる加納さんこそ、エレベーター会社にふさわしい経営者なのだろう。

COMPANY

株式会社エーステック

〒654-0044 兵庫県神戸市須磨区稲葉町1丁目1番3号
TEL: 078-733-2110
URLhttps://ace-tec.jp/

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