園芸や暮らしの中の
リクエストに応え続ける薬品メーカー
トーヤク 株式会社
代表取締役 堀江 亮介さん営業職を経て、トーヤク株式会社に入社。先代である父から家業を継ぎ、経営体制の維持に努めてきた。最近では生産している水回り掃除用品がSNSでバズるなど、社長就任後から業界も会社も新しいフェーズに突入したことを実感している。
2022年に増設した茨城県の美浦工場の製造ライン。
新入社員たちは各部門の座学研修から始まり、半年ほどは製造ラインで商品について学ぶ。研究開発、ライン立ち上げにも携わりながら多様な要望に応えるための柔軟なスキルを身につけていく。製造する商品は早ければ3日~1週間で切り替わることも多いため、工場の景色は目まぐるしく変わっていくが、社員たちは臨機応変に対応することができる。
Section 1父の“薬品くさい”背中を
追いかけた青年期
東京の東日本橋にオフィスを構え、茨城県に工場を持つトーヤク株式会社。主に家庭園芸用の農薬や工業用・家庭用の洗剤・洗浄剤といった、化学製品の開発製造から販売まで行うメーカーだ。1947年創業以来、OEMを中心とし、虫よけや水回り洗剤など私たちの生活に身近な製品を数多く手がけている。「普段みなさんが使っている洗剤なども、実はうちで生産している商品かもしれません。色々なメーカーさんとも長年取引をしています」と話すのは2022年11月に代替わりをしたばかりの若き社長・堀江亮介さんだ。
堀江さんが事業継承について意識をし始めたのは高校生のころ。従業員とその家族の生活を引き受ける父の背中がかっこよく見えたことがきっかけだったという。父は家業を継ぐことに関して直接なにかを言ったわけではなかったが、「いつも帰ってくると薬品くさかったんです」と話す父の姿を見ることが自分の将来を考えるうえで一番の刺激になった。ただ、いずれトーヤクを継ぐとしても、いったんは社会で営業の経験を積むべきと考え、堀江さんは大学卒業後に食品関係の会社に就職した。
「当時は就職氷河期真っ只中でしたから、就職するのも大変なんだなあと。そこからすでに社会の厳しさを実感していましたね」。
今から振り返れば外に出た経験すべてが教訓になったという。なかでも新入社員の堀江さんがその会社で出会った上司が、彼の仕事への向き合い方に大きな影響を与えた。当時配属された部署は新しく立ち上げたばかりの営業所であり、その所長から営業マンとしての基本だけでなく、社会人としてのすべてを学んだという。学生気分の抜けきらなかった堀江さんが従業員とその家族数百人を養う一企業の社長へと成長できたのは、営業の厳しさを知った最初の一歩があったからだ。父は「どこでもいいから営業をやってこい」と息子を送り出していた。当時何気なく受け止めた父の言葉に、今では大きな意味を感じている。
Section 2NOと言ったら、
OEMは名乗れない
堀江さんは新人営業マンのときから「無理だと言わない」という考えを大切にしている。
一度断ってしまったら、もう次のチャンスは来ない。当時の上司から教えられたことだ。不可能だと完全に否定するのではなく、どうすれば可能になるのかを考える、お客さんのニーズを把握し、実現できる方法を工夫すればできないことはない。営業マンとして試行錯誤してきた日々が、経営者となった今も堀江さんの自信の根底にある。
「無理だと言わない」堀江さんのモットーは、トーヤクの商品製造や開発にも反映されている。「世界中に工場がある大企業と同じことができるとは思っていません。でも、我々だってOEMメーカーの矜持があります。やってできないことはない。地味な作業でも、泥臭い方法でも、顧客の要望の通りにやってみせる、そうやって積み上げてきた信頼と実績の上にいるんです」。現在の工場で稼働する機械は、堀江さんがクライアントのニーズを細かく拾っていった結果揃ったものだ。次々と変わる商品企画やリニューアルに合わせて柔軟に生産ラインシステムを構築できるように工夫されている。
堀江さんの一家は戦前から東日本橋の地で代々薬問屋業を営んでいた。昔から神田・日本橋本町界隈は薬問屋街と知られ、問屋それぞれが専門分野や市場を分けることで協力しながら商売を行ってきた。その歴史のなかで堀江家が得意としたのが農薬と工業薬品、そして千葉や茨城への販売だった。千葉や茨城は国内有数の農業地だったことから、農家の悩みを聞くことが多く、その声になんとか応えられないかと自社製品開発に取り組むようになったのがトーヤクの始まりだ。「要望に応えたい」というモットーは原点から変わらない。その精神が高品質な製品を誕生させ、取引先の目に留まったからこそOEMメーカーとして発展していった。今では当たり前に家庭の掃除で見られる重曹・クエン酸も、掃除の困りごとに解決できるものとして推奨したのはトーヤクが最初だと堀江さんは誇らしげに教えてくれた。現在薬局やホームセンターなどでよく見る商品は有名企業の名前を冠しているものの、トーヤクのようなOEMメーカーが開発・生産を担当しているものも多い。様々なメーカーと付き合い、多様なジャンルの製品開発にライン立ち上げから関わることができるのもこの仕事の面白さだと堀江さんは話す。
Section 3小さなエコを考え実行し、
業界の流れを変える
現在、トーヤクでは「エコネスト(ECO+HONEST)」というスローガンに基づき、環境負荷が少ない包装・パッケージ商品の製造に力を入れている。たとえば、紙パッケージ商品や詰め替え用パウチなどがそうだ。
気候変動やSDGsへの社会的関心が高まるなか、家庭園芸用薬品に対しても脱プラスチックや環境負荷低減を求める声が大きくなっている。そうした社会や市場のニーズを受け、大手メーカーは環境対応の商品開発を加速させているが、市場投入や安定供給のためには新たな製造システムを生み出す必要がある。その課題にいち早く応え、製造の受け皿となっているのがトーヤクだ。紙パッケージ商品や詰め替え用パウチなど、それぞれの商品に対応した専用自動化ラインを構築。業界における脱プラスチックやCO2排出削減の動きを広げようと努めている。なかには製造だけにとどまらず、取引先の要望を受けて研究開発から取り組んでいる商品もある。
「エコネスト(ECO+HONEST)」には、小さな企業にできる環境対策(エコ)を誠実に取り組んでいきたいという思いが込められている。これまで当たり前であった包装を一つひとつ見直し、本当に必要かを判断していく。もし不要な包装であれば、関係者に理解してもらい削減をめざす。自分たちにできることは小さなエコであっても徹底的に実行すれば必ず社会貢献に繋がるというのがトーヤクの考えだ。
堀江さんはそうした信念を大切にし、日常の様々な点にも目を配り、環境のためにできることを探っている。
「除草剤の空き容器がパーキングエリアにまとめて捨てられているのを見て、生産者として複雑な気持ちになったことがあります。シャンプーや衣類用洗剤の詰め替えはもう当たり前になっていますが、それを除草剤分野にも拡大できないだろうかと考えています。リキッドタイプのものはボトルからパウチに置き換えを進めているところです」。
言うは易く行うは難し。容器の変更という一見すぐにできそうなことであっても、これまでの製造ラインをすべて変える必要がある。しかし、堀江さんは除草剤を製造する当事者であるからこそ、できることは躊躇なく始めていきたいと話す。常に社会のニーズを読み、不可能を可能にすることこそが、トーヤクの一番得意とするところだからだ。
Section 4自分たちの基本を変えず
社会のために貢献していく
殺虫剤が天然由来成分にシフトするのと同じく、農業や園芸でも有機栽培やオーガニックという言葉が好まれるようになって久しい。
「農薬は環境や人体に悪影響を及ぼすものだという極端な思い込みがあるように思います。医薬品と同じで、使い方と量を守っていれば安全なものなのですが、ここの啓蒙活動にまだまだ時間がかかりそうです」。
環境負荷を軽減していくことは大事だが、根拠もなく農薬を良くないものとして取り上げようとする風潮や言動に堀江さんは警鐘を鳴らす。今、農家の高齢化が進み、その平均年齢は65歳以上とも言われている。高齢化によって肉体的な負担が高まり、後継者不足や休耕地・耕作放棄地の増加も問題になっている。一方で温暖化による気候の変化によって新たな作物の病気や病害虫の発生なども心配だ。農業における問題やリスクはますます増えているなかで、それらを農薬の存在無しに語ることは難しい。農薬を正しく理解し、適切に使う方法を追究しながら農業と環境の持続可能性を探っていくことが重要だと堀江さんは考えている。
そんな農薬・化学薬品に対して、最近はSNSの影響で風向きが変わることも多い。SNSによって正しい情報が広まる場合もあれば、誤った情報が瞬く間に拡散してしまうこともある。時にはSNSをきっかけに思わぬヒット商品が生まれることもある。最近では、排水管などの水回りの掃除の「映える」洗剤がSNS上で話題となっている。細かい泡が排水管の中など手が届かない場所にも行きわたって洗浄するというものだ。もこもこの泡が汚れをさらっていくところが映像的におもしろく、Youtuberなどがこぞって動画を出したことでヒット商品となった。農薬・化学薬品の正しい理解や新しいニーズの把握のためにも堀江さんはSNSの動向を注視しながらも、無理矢理なにかを刷新するつもりはないと話す。
「これまで先代が実直に続けてきたことを引き継ぎ、従業員の生活を守っていくだけ。お客様にも従業員にも真摯に向き合って、彼らが必要とするものを提供していれば、時々はこんなSNS映えするような商品も出てくるかもしれません」。
世の中は自分たちに何を求めているのか、どうすれば期待に応えられるのかを常に考えているからこそ、時代に取り残されず社会に貢献できる会社であり続けることができる。変化の激しい時代であっても「トーヤクの基本を変えないことが最も大事なんだ」と堀江さんは教えてくれた。
トーヤク株式会社
【本社】〒103-0004 東京都中央区東日本橋2丁目16番7号
【美浦工場】〒300-0421 茨城県稲敷郡美浦村木原1876番10号
TEL:03-3851-8167(本社)
URL:https://www.toyaku.co.jp/
- 当社支援内容
- ものづくり補助金事業再構築補助金躍進的な事業推進のための設備投資支援事業(東京都)